ショートドラマ制作における制作部の仕事 ー 前編 ー
2025.05.07 (Wed)
2025.05.07 (Wed)
ショートドラマ制作における「制作部」と呼ばれるチームの役割は多岐にわたります。
撮影前、撮影当日、撮影後、さらには、脚本家によるシナリオ作成時にも制作部の役割はあります。
今回は、制作部が、ショートドラマの制作において、どのような仕事をしているのか
実際の現場から例を上げて紹介していきます。
ショートドラマにおいて、アーツテックでは、代表の酒井監督が全ての作品の監督を務めていると共に、プロデューサーも兼任しています。
制作部である私たちスタッフは、プロデューサーである酒井監督の指示のもと仕事を進めていることを大前提といたします。
そして、ここから記述することは、制作部の本来の役割であり、
私自身、本人の現実としては至らない点も多く、様々な方面でご迷惑をおかけしてしまっていることに、申し訳なさを感じております。この場を借りて謝罪させていただきます。
本題に入ります。
Contents
シナリオ作成時においての制作部の役割は、脚本家がシナリオを書くために必要な情報を収集することです。さまざまな文献やネットから、または足でかせぐなどしてシナリオに必要な情報を収集します。
集めるだけで仕事は終わりません。集めた情報を整理しわかりやすくまとめ、脚本家が一目でわかる書類にまとめます。そうすることで、脚本家にむだな時間を使わせないようにし、クリエイティブに専念できるようにします。
これが、制作部の本来の大きな役割です。
例えば、ショートドラマ「春よ、恋」(https://youtu.be/aEdl98z6mck?si=8K1_CQbPW1lMdKST)は、弊社代表の酒井靖之監督が自ら脚本も手掛けています。
(ちなみに酒井監督は、全ての作品において自ら脚本を手掛けています)
この作品に関しては、お客様からの要望はただ一つ「酒井監督に一押し商品をプロモーションする作品をつくってほしい」ということだけでした。具体的な内容は全くありません。
ただ漠然と、「感動できる作品にしてほしい」とのこと。
そこで、酒井監督は「感動ショートドラマ」の制作を提案します。
その後、プレゼンはみごと大成功し、感動ショートドラマ「春よ、恋」の制作がはじまりました。
(実際は、シナリオが先で、それを元にプレゼンをしたという流れでした)
制作部の役割としては、
まず、商品の特徴、ターゲット層、金額帯、購入経路、現在行っているプロモーション形態、競合製品などを洗い出し、リスト化し、まとめることです。
その資料を脚本家である酒井監督に確認していただき、シナリオ作成時の知識としてもらいます。
プロの現場は限られた時間の中で、最大限クリエイティブを発揮しなければならない厳しい世界です。脚本家や監督に、無駄な時間を使わせることは、クリエイティブにかける時間を少なくしてしまっていることにつながります。それは、クオリティに関わる重大なことです。
その意味において、制作部の役割は重大なのです。
制作部は、クリエイティブな作業とは少し違い、しっかりとした調査力、資料をまとめる力がある人に向いています。
「自分はクリエイティブなことが全くできないから」と、映像・動画制作への道を諦めていた人は、
制作部という道もありますので、考え直してみてはいかがでしょうか。
話はもどります。
このような準備段階を経て、でき上がったシナリオがこちらになります。
こちらにはシナリオ上に挿絵が入っています。
これは、酒井監督独自のやりかたで、誰が見てもシーンをイメージできるようにするためのものです。
お客様にもスタッフにもイメージを共有しやすいスタイルです。
酒井監督はよく言います。
「伝わらないものには意味がない」
「見えないテロップに意味がない」
私も今までの経験から「伝わらない企画書」でお客様がOKを出したことがないことを実感しました。
作り手のエゴで、作品づくりはできないということをつくづく感じます。
ドラマには当然出演者が必要です。
出演者をキャスティングする際の制作部の役割としては、監督が求めるキャストのイメージを簡潔に文章化し、キャスティング会社もしくは、タレント事務所へ直接キャスティングを依頼することです。
その際に、監督からキャストイメージをしっかりと聞き出しまとめ、そのチェックを受けることが重要です。もし間違ったイメージで依頼をかけてしまうと、全くイメージの合わないキャストが多数集まってしまい、その中から選ぶことになるか、またはやり直しになってしまうからです。限られた時間の中で、ミスはクオリティに直結してしまうので、注意が必要です。
感動ショートドラマ「春よ、恋」における、ママの彼氏役の男性のキャストイメージはこちらになります。
哲也 役 キャストイメージ
設定38歳
実年齢 30 中頃〜45 歳くらいまで。
ITべンチャー企業の社長。
仕事上の夢を追い続けてきた。
ON、OFF の切りかえかが上手く、上質でスタイリッシュなものが好み。 女性には誠実に接するフェミニストの面も持つ。
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上記の他に、ギャランティ、使用媒体、期間、オーディション日、オーディション場所、衣装合わせ日、台本読み合わせ日、撮影日を明記する必要があります。
このキャストイメージで集まった俳優数十名を、プロフィールをもとに書類審査をし、厳選させていただきます。その後、オーディションを行い、その中から役にぴったりあった方を選出させていただく流れになります。
実際どのような方になったのか、本編後半でご確認ください。
(https://youtu.be/aEdl98z6mck?si=8K1_CQbPW1lMdKST)
キャスティングと同時進行で、進めなければならないのがロケーションハンティングです。略してロケハンと言いますが、最近では一般の方も使う言葉になっていますので、イメージできるかと思います。
シナリオに沿って、監督のイメージに合う場所をあらゆる方法で探してくるのです。
部屋の中のシーンは、スタジオを中心に探します。
道を歩くシーンは、実際の道を。
車のシーンは、撮影のために車が走らせることができる道を探します。
方法としては、ネットであらかたの目処を立てた後、実際の目で見て候補を出していきます。過去の経験からイメージに合いそうな場所を抽出することもあります。
スタジオ選びのポイントは、シナリオにおける設定に合っているかです。
感動ショートドラマ「春よ、恋」では、シングルマザーの女性とその娘の二人暮らしの部屋を探す必要がありました。
豪華すぎる部屋はイメージに合いません。狭すぎても撮影に支障をきたします。
ドラマのファーストカットで、部屋を大きく使うシーンがあります。
手前にママがいて髪の毛をセットしていて、部屋の奥に娘が学校へいく準備をしているシーンです。このカットを実現できることが、部屋選びのポイントでした。
制作部だけでのロケハンを行い、数件のスタジオ候補を抽出。
その後、監督とロケハンを行い、決定していただきます。
監督は当然、作品に対する想いやこだわりが強いので、一筋縄ではいきません。
監督のイメージと合わなく、再度探し直すことも多々あります。
スタジオが決定できたら、
撮影部、照明部、美術部、ヘアメイク、衣装部を含めたオールスタッフでのロケハンを行います。
シーンに沿って、カメラ位置や俳優の立ち位置を決め、監督がその場その場で、各役割に対してイメージを伝えていきます。
そのイメージを各パートが再現していくわけです。
すべては監督の設計図通りにつくられていきます。
ほとんどのスタジオには、必要最低限の家具、小物しか置いていません。
よって、様々なものを持ち込む必要があります。それを担当するのが美術さんです。
ここでは、感動ショートドラマ「春よ、恋」の美術に関しての実例を紹介します。
ハウススタジオにおける実際の美術プランはこちらになります。
ここに書かれているもの全てを美術さんが用意します。
詳細に設計されているのが分かると思います。
ロケハン時に美術さんは、この詳細なイメージを監督より聞き出し、準備していきます。数ある家具の中から選んでいくわけですから、センスも必要な仕事です。また、限られた予算の中でこれを実現していくため、センスの他に知識や経験も必要とされる仕事です。
道選びのポイントは、スタジオに近いことです。
1日の撮影の中で、撮影できるシーンは限られています。
移動時間を短縮することが、撮影にかけられる時間を増やすことにつながるからです。
ただ、道といってもどこでもいいわけではなく、当然監督のイメージ合わなければなりません。
自分の足でスタジオ周辺を回り、候補を出していきます。
スタジオ選びと同様に、監督のOKをもらうことはそんなに容易ではありません。
監督ロケハンによって決定した実際のロケ地の資料はこちらです。
こちらは、歩きのシーンを車のシーンの撮影場所の近くで見つけ、同じ日に撮影するという作戦で成功したものです。
俳優の衣装は、衣装合わせを行い決定します。
衣装部さんが監督のイメージに沿った衣装を数点持ち込んで、
俳優さんが実際に着てみることで、衣装を決定していきます。
制作部の役割としては、決定した衣装をリスト化し、衣装部さんと共通認識を持つことです。これがいずれ撮影日のスケジュールと密接に関係していきます。
撮影は、コンテの流れ通りに進んでいくわけではありません。
どのシーンの時に、どの衣装が必要なのか、撮影香盤と呼ばれる撮影スケジュールに明記し、衣装部さんはそれを見て次の衣装を準備していきます。
これを間違うと、前のカットで着ていたはずのジャケットを、次のカットで着ていなかったりなど、カットがつながらなくなり、ドラマが成立しなくなるような、大変事態に陥ります。制作部は常に、様々な方面に細心の注意を向ける必要があるのです。
撮影前の準備段階として、重要なフェーズは、撮影部、照明部との技術打ち合わせです。コンテやロケハン資料をもとに、使用するカメラ、照明機材を選定していきます。映像のトーンを決めるカメラ選びは監督が行います。
感動ショートドラマ「春よ、恋」では、Blackmagic URSA Mini Pro 12Kが使用されました。
監督は撮影部に、カット割や、カメラの動きなども伝えていきます。
時には、俳優の心情に合ったカメラの位置、構図、動きなどを相談しながら決めていきます。
照明の設計は、監督の指示のもと照明部さんが行います。
例えば、出勤の準備をしているママのシーンで、監督は「背景に朝の光を感じる差し込みがほしい」と伝えます。
その指示に沿って照明部さんがどこにライトを置いてどこに光を当てるのかを設計していくのです。
制作部における最重要の仕事は、撮影香盤づくりです。
上記の一連の決定事項を撮影香盤に落とし込みスケジュールを組んでいきます。メイク都合、天候都合、機材都合、さまざまな事情を考慮してスケジュールを組んでいく必要があるため、経験と勝負感を要する非常に難しい作業になります。
以上が、撮影前のプリプロダクション時における制作部の役割です。
少しでも参考になれば幸いです。
改めて制作部の役割の重要性を感じている次第です。
次回は、撮影以降の制作部の役割をご紹介させていただきます。
(筆者 アーツテック制作スタッフ 伊藤)