ショートドラマ制作における「制作部」の仕事(後編) ー ショートドラマ以外の事例も紹介 ー
2025.07.01 (Tue)
2025.07.01 (Tue)
前回は、ショートドラマ制作における「制作部」の役割をご紹介させて頂きました。
本当にたくさんの役割があると、紹介しながら実感している次第です。
今回は後編として、撮影以降の制作部の役割を、ショートドラマに限らず、実際の現場から例を上げて紹介していきます。
撮影時における制作部は、まさに「現場進行の要」となる非常に重要なポジションです。
第一に、 撮影が予定通り進んでいるかを確認し、遅れがあればスタッフと協議して対応していきます。
撮影スケジュールは、香盤表という表をもとに、スタッフの共通認識の上進んでいきます。
こちらが、ショートドラマにおける車のシーンを撮影した日の撮影香盤です。
この時は、千葉の九十九里での撮影でした。
朝のロケバス出発の時間から、メイクの開始時間、その間にスタッフが現場で準備を進めいていくという流れになっています。
ドラマの場合は出演者が多いので、そのシーンに誰が出演するのかも明確にしておく必要があります。
メイクさん、衣装さんは、これを見て次の段取りを組んでいくからです。
香盤表ひとつとっても、もし間違いがあれば進行に大きく影響してしまいます。制作部は本当に責任の大きい仕事です。
屋外での撮影の場合、ロケ地の許可どりも事前にやっておく必要があります。
また、近隣に迷惑をかけないよう進行すると共に、事前に近隣の方へお伝えしておく必要があります。
菓子折りを持って挨拶する場合もあります。
また、昼食を用意するのも制作部の役割です。
この日は、ロケ地近辺のお弁当屋さんを利用しました。
簡単に見つかったところで済ますのではなく、熟考してスタッフに喜んでもらえるお弁当を探すのも重要です。
そういった努力は、スタッフに伝わるからです。
全てにおいて手を抜かず全力で臨むことが、制作部のとして作品作りに貢献するための重要なことだと考えます。
その他にも、当日の全員のスタッフ、出演者の体調管理、休憩時間の調整、備品の準備・手配、撮影に必要なものの調達や管理、
緊急対応、トラブル処理など、現場対応は全て制作部の役割となります。
次に、撮影後の制作部の役割を紹介していきます。
撮影前までの段階を業界用語でプリプロダクション、撮影後の段階をポストプロダクションといいます。
ポストプロダクションの第一段階は、編集の準備です。
映像・動画制作において、すべての工程にその前段階の準備が発生します。
実は、この準備が一番大切で、
弊社の酒井監督は「何事においても準備が90%を決める」といつも言っています。
やってみて分かることですが、本当にその通りです。準備が、進行だけではなく作品のクオリティにまで影響してくるのです。
準備をしっかりして、監督やスタッフ皆に気持ちよく仕事をしていただくことが良い結果につながると、
多くの現場を経験させて頂き実感しております。
編集時の準備としては、
まず、編集ソフト内で、撮影した素材をわかりやすくフォルダ分けすることです。
ただし、編集素材の整理は、助監督が行うことが正解です。
つまりカチンコを入れた人が整理するのが正しいのです。
ただ今回は、少数精鋭のプロダクションにおける制作部の役割とさせていただき、
助監督の役割を兼任することもあるという前提でご説明させていただきます。
わかりやすい共通ワードで、
ネーミングし、撮影に立ち会っていない人でも一目で分かるように分類します。
例えば、CMの場合、カット番号が撮影前にコンテに記載されて決まっているので、
そのカット番号でフォルダ分けします。
その中で、OK、NGを分類します。
キープがあった場合、OKの中に入れ、キープとネーミングします。
CMやドラマの場合は、カット番号があるのでわかりやすいです。
こちらが、CMのコンテの例です。
大変なのは、ドキュメンタリーや取材もので、現場の状況に合わせて撮影していくタイプです。
素材が膨大にあるのと、分類の仕方が難しく、整理するのにもセンスが必要となります。
人によっては混乱をきたす振り分けをしてしまい、編集が余計に遅くなってしまうこともあります。
準備の目的は、早く編集を進められるようにすることなので、本末転倒です。
分類のコツとしては、人物で分ける、場所で分ける、日程で分けるなどがあります。
決まりがあるわけではないので、
そのコンテンツに合った、誰が見てもすぐに分かり編集が早く進む、クリエイティブな分け方が一番望ましいです。
準備するのは、撮影素材だけではありません。
編集で使用する写真、テロップ情報、インタビューの書き起こしなど、
編集に必要なものは全て揃えた上で、いざ編集という流れになります。
編集時は、編集マンがディレクターの指示に従い、組み上げていくパターンと、ディレクター自ら編集するパターンと2種類あります。
前者は、まさに撮影に立ち会っていない人が編集することになりますので、
どれだけ整理されているかがキーとなります。
ディレクターに「あの素材どこ?」と聞かれたときに、
どんな方法を使ってもパッと出せるようにしておくことが重要です。
プレビュー時に、素材のタイムコードを記録しておくことが、良い方法でしょう。
続いては、試写における制作部の役割をご紹介します。
弊社において試写の仕方は、2つのパターンに分かれます。
一つは、弊社の編集室にお客さまをおよびして、試写をするパターン。
二つ目は、お客さま先に行って、場所をお借りして試写をするパターン。
弊社にお客さまをおよびするパターンでは、まず、当然のことながら編集室を綺麗な状態に整えます。
弊社の編集室は、常に綺麗な状態を保つことを心がけておりますので、いつお客さまがいらしても特に問題ないようになっています。
仮編が完了している本編のシナリオをコピーし、人数分用意しておきます。
ちなみに、仮編が完了したら、それを正確にシナリオに反映していくのは、助監督の役割です。
試写においてシナリオは絶対にかかせません。映像とシナリオを見ながら、試写は進んでいきます。
また、タイムコードを表示しながら試写を行うことも重要です。
「何分何秒の〜のカットは・・・」といった具合にタイムコードで指定することがプロの編集現場では正しいやり方です。
お客さま先で試写をする場合の準備はまず、お客さま先にモニターはあるのか、スピーカーはあるのかを確認することが第一です。
次に、モニターがあった場合、そこにつなげるケーブルはあるのか、なければ持っていくし、
モニターがなければモニター自体を持っていくことも考えなければなりません。
スピーカーは、基本すべての試写において持っていくべきものです。
試写において「音」は、大きなウェイトをしめる要素で、「感動できるか、できないか」は音にかかっているといっても過言ではありません。
スピーカーを持っていくことは、非常に重要なことなのです。
試写においては、お客さまがどのような印象を得るかで、その後が全く違ってきますので、とにかく万全な態勢で臨むことをおススメします。
ポスプロダクションの最終段階は、MAです。
MAとは、Multi Audio(マルチオーディオ)の略。
MAスタジオに入り、ナレーション、音楽、現場音、効果音などを組み合わせ、mixする作業です。
MAには、お客さまをおよびすることがほとんどです。
お客さまと一緒に最終段階を終えて、完成形を見ることも、映像・動画制作においては重要なシーンになるかもしれません。
MAの際の制作部は、ナレーション原稿、コーヒー、水などを用意することや、
ナレーション収録中には、お客さまに「気になることはありませんか?」などお声がけすることなどの役割があります。
いずれにしても、制作部の仕事は全般的に気をつかう仕事になります。
気が利く人が向いている仕事です。一方気が利かない人は全く向いていない仕事かもしれません。
向き不向きはさておき、
無事MAが完了し、お客さまと完成を喜んだ後も、制作部の役割はまだあります。
MAデータ、完成データをしっかりと管理することです。
そして最後に行う作業としては、完成データの書き出し。これは慎重に行う必要があります。
ここで失敗すると今までの努力は水の泡です。
ほっとしている場合ではありません。
最後の最後まで、プロとしての意識を持ち続け、気を抜かないこと。
「プロは、どんなことが起ころうともミスをしてはいけない。そのための準備を怠らない」と酒井監督は言います。
完璧に、当たり前のようにこなす。それが、プロとアマチュアの差だと。
完成データをお客さまの元へその手でお届けして、一連の制作部の仕事は完了となります。
正直、私としてもこの制作進行を100%完璧にやり切ったと言える仕事は一度もありません。
そこに近づけるよう役割というものを振り返り、反省しながら、次の仕事に望みたいと思っております。
映像・動画制作において、制作部の仕事は本当に多岐にわたります。
「何事においても準備が90%を決める」
この言葉を肝に銘じて、精進してまいりたいと思います。
(筆者 アーツテック制作スタッフ 伊藤)