魅力を引き出すチカラ
2025.09.04 (Thu)
2025.09.04 (Thu)

私たちが普段接している人やモノ、あるいは日々活動している組織には、まだ見えていない素敵な一面が必ずあります。
けれども、それはなかなか自分では気づきにくく、外からの視点によって初めて分かってくることも少なくありません。
数々のCMや動画作品を生み出してきたアーツテック代表・酒井靖之監督に、今回は、人物・商品・会社の魅力の引き出し方、見つけ方について綴っていただきました。
映像のプロフェッショナルならではの視点が、きっと日々の仕事やコミュニケーションのヒントにもなるはずです。
CMや製品紹介動画を担当していると、様々な分野の、ありとあらゆる商品を試作段階から見ることが多くあります。
その中には、一目見て「これは売れる!」と思わせられるものから、正直に言うと「うーん、微妙‥‥」というものまで数多くあります。
でも、自分たちはそれらの広告動画を作る立場として、商品の良いところを見なければなりません。
その商品にマッチする人は必ずいるはずだから。
その商品の魅力を引き出して、その価値を余すところなく伝えていくのが私たちの仕事なのです。
まずはクライアントとの打ち合わせの第一段階で、ターゲットや商品の特長だったり、競合他社との差別化だったりが、シートにまとまっているのが一般的です。
これを、オリエンシートと言います。
しかし、僕が一番重要視しているのは、「開発者の想い」です。
商品の生まれる背景には、必ず開発者の想いがあります。
どういう経緯でこの商品の開発に至ったのか。
そこをまずとことん聞き出します。
なぜなら、その想いを聞いて自分自身がその商品のファンにならなければ、良い企画など到底作れないからです。
例えば、弊社アーツテックは、伊藤園さまの「お〜いお茶」の宣伝に関する動画を担当させて頂いております。
僕は、お茶は伊藤園しか買いませんし、飲みません。
それはクライアントだからというよりも、やはり僕は伊藤園のファンだからです。
伊藤園のお茶は、「お茶の味がすっきりし過ぎているのではないか」という感想が寄せられることがあります。
しかし、伊藤園のお茶を透明のコップに注いでみてください。
他社のお茶と比べて、全くと言っていいほど濁りがありません。
この、濁りが無いお茶を作るというのが、伊藤園の徹底したポリシーなのです。
(ここは伊藤園の宣伝の場ではないので、それに関する議論は割愛します)
その商品には、この商品を何としてでも世に広めたいという想いを持って戦ってきた開発者、営業の方、事務の方たち、大勢の想いがあります。
その想いを聞く中で、自分もお茶を飲み、そのファンになり、そこから商品の良さを見出していくのです。
その良さを伝えるには、単に「すっきりしている」「食事の時もごくごく飲める」といった単直な発想ではなく、クライアントにはない視点から、見ていかなければなりません。
例えばの例ですが、
お茶といったら大人が飲むものというイメージがあるかもしれない。
でも、もしこれが子供も飲めるお茶だとしたらどうなのだろうか。
だとしたら、子供が飲むようなシーンを入れたらいいんじゃないか。
といった発想も出てくるのです。
画一的にその商品を見るのではなく、いろいろな角度から見ていくことによって、今までお茶に見向きもしなかった人に、お茶を飲ませられる可能性もあります。
また私ごとですが、炎天下のロケ中には、うまみが強いお茶よりも、すっきりとしたお茶を飲みたくなります。
そういうシチュエーションで飲めるお茶が欲しい、という発想もあるわけです。
こうして、様々な方向から、すっきりしたお茶の魅力を見つけていく。
そして、今まではターゲットでは無かった人に訴求できる価値を見つけていく。
これが、クリエイターが持たなければならない視点だという風に思っています。
僕はこれまで、数えきれないほど多くの化粧品のCMやプロモーション動画を制作してきました。
美容系の映像に関しては、おそらく自分ほどの本数を手掛けてきた人間はそう多くないのではないか、と自負しています。
ただし、僕自身は化粧品を実際に使う立場の人間ではありません。
だからこそ、制作のスタート地点はいつも徹底的なリサーチから始まります。
化粧品という商品は、根本的に「女性が抱えているお悩みをどう解決できるか」という問いに向き合うものです。
その悩みを理解せずに映像を作ることはありえないからです。
リサーチを重ねていくと、そこには興味深い現実が見えてきます。
本当に中身の良い商品だからこそ売れているものもあれば、商品そのものは平均的でも、広告映像の巧みさによって大きくヒットしているケースもあります。
僕が担当する案件については、信頼して依頼してくださったクライアントの想いに応える責任があります。
視聴者の琴線に触れ、ほんの一瞬でも「これは、いいかもしれない」と思わせること。
その瞬間がなければ、商品がいかに素晴らしくても、いくら綺麗に動画を仕上げても、売上にはつながりません。
そのために僕は、徹底してリサーチを重ねるだけでなく、開発者やマーケティング担当者の想いをじっくりと聞き出します。
どういう問題意識から商品が生まれたのか。
どんな未来を思い描いているのか。
この商品を使う方々に、どんな想いを抱いていただきたいか。
そうした想いを理解しなければ、単なる「きれいな動画」で終わってしまうからです。
そして絵コンテ作りに進むときに大切にしているのは、「熱」です。
といっても、勢いだけの情熱ではなく、その商品の優位性や魅力をどんな言葉で、どんなイメージで表現すれば一番伝わるのかを真剣に考えること。
いわゆる「強いコピー」です。
そのために僕は毎回、ナレーションやコピーの言葉を何度も推敲し、時にはもがき苦しむようにしてひねり出しています。
単に、商品を説明するだけの内容では不十分です。
大切なのは「ベネフィット」、つまり「この商品を使った先に待っている未来」を描くことだと僕は考えています。
化粧品なら、それを手にした人がどのような意識に変わり、どんな生活を得られるのか。
未来の姿をしっかりと提示できなければ、人のココロを動かすことはできません。
また作り方として、今の時代はSNSの影響が大きく、従来型の作り込まれすぎたCMは、かえって敬遠されがちです。
だから僕は、仕上げ方にも細心の注意を払います。
信憑性があり、共感を呼び、見ていて「これは嘘じゃない」と思える表現であること。
映像に漂う空気感ひとつで、受け手の印象は変わります。
結局のところ、商品の魅力をより強く伝えるためには、仕組みづくりが重要なのです。
リサーチによる深い理解、開発者や担当者の想いの掘り下げ、言葉選びの精緻さ、そして信頼を損なわない表現方法。
そのすべてが噛み合って初めて魅力が引き出されて、「売れる動画」「ココロを動かす映像」が生まれると僕は思っています。
僕は、人物を描くドキュメンタリーの仕事も数多く手がけてきました。
そんな僕がカメラを回す前にまず行うのは、その人物について徹底的に調べることです。
著作があれば、深く読み込み、過去の活動やインタビュー記事にも目を通します。
その人が、どんな人生を歩み、どんな価値観を持ち、何を伝えようとしてきた人なのか。
その人の背景を深く理解することから、取材は始まります。
田原総一朗さんの著書『聞き出す力』に「取材はその人間を好きにならなければできない」とあったと記憶していますが、僕もまったく同感です。
対象となる人物を徹底的に好きになること。
そこからしか、本当のコミュニケーションは生まれないと思うのです。
もちろん人間ですから、良い面も悪い面も持っているとは思います。
でも僕は、取材においてはできる限り良い面だけを見るようにしています。
僕の根底には「自分にできないことをできる人は、それだけで尊敬に値する」という考えがあるからです。
僕は小学生や中学生が目を輝かせて「どうして?」「なぜ?」と質問するように、相手に純粋な好奇心を持って、取材対象者に向き合っています。
そして、取材で最も大事なのは、相手との壁を取り払うことです。
取材する側が、壁を取り払うのです。
壁を壊すことができなければ、相手は心を開いてくれません。
形式的な質問や堅苦しい態度では、本音にはたどり着けないのです。
僕はいつも、世間話から始めます。
雑談の中で笑い合ったり、共通点を見つけたりしながら、少しずつ相手の懐に入っていく。
そうしてはじめて、その人が本当に大切にしている価値観や、普段は語られない本心が表れてくると思います。
ドキュメンタリーにおける取材の入り口は、取材対象者と仲良くなることに尽きます。
仲良くなれなければ、その人の魅力を見つけることも、引き出すことも、そして視聴者に伝えることもできません。
至極シンプルなことですが、僕にとっては一番大事なことです。
企業のブランディング動画や採用動画も数多く作ってきました。
その際によく耳にするのが、こんな言葉です。
「ウチはどこにでもある、ありきたりな会社なんですよ。特別に誇れるものなんてないんです」
けれども僕は、迷わずこう答えます。
「必ずあります。ずっと会社の中にいると、当たり前に見えて気づけなくなっているだけなんです。僕たちは外からの目線で、その良さをしっかりと見つけていきます」と。
実際、これまで関わってきた何百社の中で、オンリーワンのない会社というものに出会ったことは一度もありません。
まず第一に、会社が存続しているという事実そのものが、すでに「オンリーワン」です。
競争の激しい世の中で、会社を継続できているということは、それだけで唯一無二の価値を示しているのです。
さらに、その会社が生まれた背景には必ず「創業の想い」があります。
誰かが強い意志を持って立ち上げ、続けてきた歴史。
それは他のどの会社にも真似できないストーリーです。
加えて、商品やサービスに独自の価値がある場合もあれば、社内の文化や美観、あるいは福利厚生などにオンリーワンが宿っていることもあります。
どんな会社にも、必ず、その会社だけの唯一無二の輝きが存在するのです。
以前、ある企業の担当者の方から「ウチの会社のロビーは確かに綺麗だと思います。でも、そんなことでブランディングになるんでしょうか?」と聞かれたことがあります。
僕ははっきりと「なります」とお答えしました。
清潔さや整えられた空間には、必ずその会社の心意気が表れています。
単なる見た目の問題ではなく「社員やお客様を気持ちよく迎えたい」という会社の姿勢そのものを映し出しているからです。
その心意気こそが、商品やサービスを生み出す要因になっていると僕は思っています。
ブランディングとは、何か特別に派手な要素を探し出すことではありません。
会社の日常の中にある「こだわり」や「想い」を、どう映像として切り取り、どう物語として伝えるかにかかっていると考えます。
そして僕たちの使命は、そのオンリーワンの魅力を掘り起こし、光を当て、見る人のココロに届く形にすること。
それに尽きると思います。
いつでも、小さなことに感動できる感受性と、日頃からさまざまなことを学び取ろうとする姿勢。
この二つを何歳になっても失わなければ、物やサービスはもちろん、人物や企業が持つ本当の魅力を必ず見つけ出せると信じています。
どれほど大きな企業でも、どれほど有名な人物でも、あるいは街の小さなお店や一人の社員であっても、その内側には必ず「唯一無二の輝き」があります。
けれども、それは日常の中に静かに隠れていることが多いのです。
だからこそ、それに気づくための感性や、学び続けようとする姿勢が欠かせないと思うのです。
僕自身も、その魅力を見抜く目が曇ってしまわないように、これからも意識して感性を磨き、ココロを開いて生きていきたいと思います。
小さな発見に心を動かし、何気ない言葉に耳を澄ませる。
その積み重ねが、映像づくりの力となり、人や企業の魅力を伝えるエネルギーになるのだと信じています。
そしてその営みはきっと、映像という仕事にとどまらず、人生そのものを豊かにしてくれるものだと、僕は信じています。