「誰も知らない、誰も教えてくれない演出術」Vol.1 -演出家になる素質とは?-
2022.02.21 (Mon)
2022.02.21 (Mon)
演出家志望者、必読!!
二十数年に渡り、映像業界の第一線で活躍を続けてきた、弊社代表・酒井靖之監督が、
演出家を志す人々へ送る新企画「誰も知らない、誰も教えてくれない演出術」がスタート。
記念すべき第一回は、演出家としての資質から、映像作品の企画作成までを、縦横無尽に語ります!
Contents
映像制作、動画制作において、監督が行う仕事は「演出」と呼ばれています。
監督は、「演出家」とも呼ばれるのはこのため。
「演出」の定義について、辞書には、《脚本・シナリオにもとづいて、俳優の演技、舞台装置、種々の効果などの各要素を総合的に組み立て、舞台に上演、または映画やテレビ番組などを制作すること》とあります。
僕(酒井)も、演出を始めて二十数年が経ちましたが、未だに、自分が正しく演出できているかどうか、実は分かりません。
我々の立場では、他の監督がどのように演出しているのか、その場面を見ることはありませんし、そもそも我々に教科書はないのです。
若き日に、ヒッチコックの『映画術』を読みましたが、何のことやら、さっぱり分かりませんでした。
それはあくまでもヒッチコックの手法の解説であって、自分が描くイメージに当てはまるものではなかったからです。
言うなれば、人それぞれ演出の手法は違いますし、つまり「演出」に教科書はない、ということです。
しかし、監督として二十数年過ごす中で、すべて自己流ながら、自分なりの演出術というものを体得することが出来たと思っています。
一概に、誰にでも当てはまる演出術というものは存在しませんが、演出家、監督を志している人に、何らかの参考になればと思い、今回の企画となりました。
映像作品における演出とは、監督の頭の中にあるイメージを、他人の力を使って具現化していくことと言えるでしょう。
例えば絵画なら、作者が一人で作業をしますし、小説でしたら、自分のイメージを、自分の技術で書けば良いのですから、作家自身が監督でもあるわけです。
つまりは、ひとりで完結できる領域なのです。
しかし映像の場合は、監督が関わらねばならない領域が広く、多分野に渡るため、全てを一人で担うことは出来ません。
演出家は、脚本、撮影、演者、音声、照明、編集、CGといった各分野それぞれのプロフェッショナルを従え、その能力を最大限に発揮させて、自分のイメージを具現化していくのです。
監督というのはチームのリーダーです。
映像の監督という立場は、特別な存在だと思われがちですが、分かりやすく言うと、料理の世界でいえばシェフであり、工事現場でいえば現場監督です。
一体何が正解なのか、どこに行けば完成にたどり着けるのか、それはシェフや現場監督だけにしか分かりません。
そこに至る道筋が、たとえどのような状態であったとしても、皆を的確に動かし、素材や材料を完成形へと到達させる存在が、シェフであり、現場監督でしょう。
映像制作における監督の場合も全く同じです。
どのようなスタッフとチームを組もうが、スタッフに自分の脳内のイメージを明確に提示し、何が正解で、何が間違っているのか、どうすれば自分のイメージに近づけるのかを理解させていき、成功へと導いていくのです。
映像の場合、多数のスタッフが関わってきます。
そうした中で重要になってくるのが、コミュ二ケーション力。
現場では「もっとドーンと!」「もっとズキューンと!」など、非常に抽象的で曖昧な指示をしてしまいがちです。実際、こうした人はいっぱいいます。(僕の先輩は、ほとんどこういったタイプでした)
やり慣れているスタッフだと、意図していることが伝わりやすいのですが、初めてのスタッフと作業をする場合は、意思の疎通がそう上手くいかない場合があります。
つまりは、監督が意図しているものと相違が生じてしまうのです。
「ダメ出し」という言葉演出用語があります。何がいけないのかを各スタッフに伝えていく、監督の重要な仕事です。
この「ダメ出し」をいかに少なくしていくかが、演出家、監督の腕の見せ所でしょう。
完成形のイメージを損なうことなく制作を進めて行くには、素早く的確にイメージを言語化して伝える、高度なコミュニケーション力が必要です。
その点、良い監督さんは総じて話が上手だと思います。
ダラダラ喋ることなく、要点を突いた一言で、大勢のスタッフを動かしていきます。
これが、コミュニケーションが下手な監督だとどうなるでしょう。
まず、スタッフが大変困ります。
何を求めているのか、どうすれば正解なのか、何がNGなのかが分からないような監督と作業すると、非常にストレスが溜まることとお察しします。
明確な指示もなく、ひたすら「何か違うんだよなぁ」を繰り返すような監督がいたら、「だったら、何をどうしたいのか、はっきり言ってください!」と、皆が怒り出しても仕方ありません。
これではチームの輪も乱れ、士気が下がり、ついでに時間も掛かります。
この世界では、時間はすなわちお金です。時間が掛かればお金も掛かり、作品の質も落ちていきます。時間がかかって良いことは、ひとつもありません。
若き日に「監督は5秒以上、悩むな!」と学びました。
監督が悩んでいると、周囲のリズムが崩れるからです。それは、実際についた監督さんから学んだことです。(先輩、すみません)
たとえば、ドラマの世界では、カメラの位置、演技の細かい部分、果ては衣装のファスナーの位置まで、各方面から、実に様々なジャッジを求められます。
優れた監督は即決です。
悩んでいる姿を決して見せないことで、「この人は分かっている」と周囲も安心できるのです。
普通の社会でもそうでしょう。
上司に相談するとして、いちいち「うーん、どうしよう」という人よりも、スパッと解決策を回答してくれる人の方が、部下の信頼も得やすいと思いますし、そうした人の方が、仕事もできるはず。
即断即決のリーダーの方が、皆がついて行きやすいのは映像の世界も同じなのです。
自分の考えをしっかり持ち、どんな時でもスパッと回答できる、そんな監督こそが、映像、動画の現場でも信頼されます。
以上のように、演出家、監督に求められているものは、特別なことではなく、実社会で必要なスキルと同じなのです。
プロジェクトのリーダーなのですから、コミュニケーション力とチームリーダーとしての資質が何よりも必要なのです。
リーダーとしての資質を身につけることなく、ただ単に才能のみで監督の地位に登った人もいると思いますが、その周りのスタッフは、相当な苦労をしていることとお察しします。
監督の補助をする役職を「助監督」と言います。(TVの世界では「AD」、CMの世界では「PM」「制作」と呼ばれるポジションのこと。やる仕事はほぼ同じ)
助監督という仕事は珍しいポジションです。
「監督」を「助ける」と書いて助監督ですが、現場では一番下の立場です。
ところが、助監督としての修行を終えて監督になると、いきなり現場の頂点に立つことになります。
途中段階を経ることなく、いきなり最高ポジションに就くことになるわけです。(監督になれたら、の話ですが)
監督という立場は、会社の社長と似たようなポジションだと思います。
誰にも相談できない孤独なポジション。自分を信じて前に進むしかないポジションだということです。
映像作品の監督に抜擢された以上、プロジェクトの最高責任者となるわけです。
その下には、海千山千の大勢のスタッフがいます。
会社の社長と同じく、様々な局面で英断をしていかなければなりません。
優れた監督になりたいとお考えなら、助監督といわれる立場の時に、誰よりも他人の気持ちを分かるような訓練をすることが、目指す近道になると思います。
誰よりも苦労し、誰よりも現場の事を学ばなければなりません。
現場の苦労を知らない人がチームリーダーになったら、誰がそのような人について行くでしょうか。
仕事だから、みんな割り切って、一応は従うとは思います。
しかし、士気の上がらないチームでは、最高の結果を生むことは難しいと考えます。
助監督時代は一番苦労しなければならないという風潮が映像業界に残っているのは、そういう理由からなのです。
最近では、自主映画で名を成した人や、漫画家、音楽家などが、助監督を経ずして監督になるケースも多くなりました。
それ自体は、とても良いことです。映像業界に新しい血を入れることで、業界自体も活性化していくと思うからです。
しかし、そのような場合にはきちんと補佐できるベテランのスタッフが脇にいることが必要になってきます。
映像業界のみで使われる専門用語も多々ありますし、照明部や美術部とやりとりする際にも、長年の経験が必要だからです。
チームリーダーとしての資質を磨いていかないと、いくらセンスがあっても、大きい仕事はできません。
今、流行しているYouTubeなどの動画クリエイターならば、自分で撮影・編集すればいいのですが、ドラマやCMなどの、多くのスタッフや、クライアント、広告代理店が介在し、多額の制作費が動いている仕事では、そう簡単にはいきません。
クライアントは、監督が堂々と指揮を取り、現場を回している姿に、プロフェッショナルを感じ、安心もしてくれます。
だからこそ、映像を学んだり、本を読んだりすることも、もちろん大事なのですが、リーダーとしての振る舞いも身につけていなければなりません。
「時間に遅れない」「約束したことは守る」に始まり、スタッフやクライアントへの気遣い、身のこなし、自分のことだけではなく、常に周りを見ていられるような、気配りや考え方。
現場だけではなく、常日頃からこうした訓練をしていなければ、いざというときに力は発揮されません。
これらを私は演出家としての第一歩として、将来、リーダーになっていくであろう若いスタッフ達に、いつも教えています。
助監督、アシスタントが陥りがちなのが、現場で大きな声が出せないということです。
「はい、本番!!!」
これを大きな声で出せるかどうか。
興味深いことですが、大きな声が出せない人は、大体この世界を去っていきます。
エキストラを含めて総勢100名ほどの大きな現場では、数百メートル先にまで、自分の声で、監督の指示を伝えなければならないこともあります。
大勢の俳優陣、エキストラ、スタッフに、一声で、瞬時に、監督指示を伝達すること。
プロの撮影現場は常に時間との戦いです。これも、ひとつのコミュニケーション力といえます。
トランシーバーを使った伝達も、プロの世界では多用されます。
これも、大勢のスタッフがいた場合、「誰が誰に伝えているのか。指示したことは了解したのか」と、コミュニケーションが下手な人が介在すると、現場が混乱をきたします。
聞きたいことは何か、短く伝わる言葉で尋ねる。理解したら、その旨をしっかり伝達する。
実社会での当たり前のコミュニケーションができない人には、相当難しい仕事だと思います。
強面の人たちばかりの映像の世界の中で、大きな声を出すことが恥ずかしい、自分の立場を考えると萎縮してしまう、という人もいます。
しかし、大きな声を出さなければ、この世界ではやっていけないと先輩たちは教えてくれました。
それは、今思えば、自分がリーダーになった時に、いつでも、堂々と話しができるための訓練だったと思うのです。
人の目を見れなかったり、挙動不審でおどおどしていては、どの世界でもリーダーにはなれないでしょう。
胸を張り、しっかり相手の目を見て、自分の考えを伝える。
人と話す時には、大きな声で、簡潔に、しっかり伝わるように語る。
これはどの世界にも当てはまる、社会人としての資質です。
今の世の中では、なかなかこういったことを訓練する機会がないので、アーツテックでは、若い社員にこういったことをしっかりと学んでもらいたいと思っています。
こうした基礎さえあれば、映像の監督は必ずできると僕は思っています。
昔話になってしまいますが、私の助監督の時代、携帯電話はありませんでした。
早朝、新宿スバルビル前に、スタッフおよびエキストラ100名を確実に集めなければならなかったのです。
連絡手段もFAXか固定電話しかありません。
はぐれた時、見つからなかった時は、誰がどこでどうするかを、きちんとシミュレーションしておかなければなりませんでしたし、むしろそれが当たりまえでした。
大変でしたが、事前の準備への意識が、非常に養われたと、今では感謝しています。
今は携帯電話でのやり取りを前提にした待ち合わせが多いと思います。
しかし、基本は一緒です。
プロの現場というのは、一分一秒でもおろそかにできない仕事です。
集合を遅らせたり、出発時間を遅らせることはとんでもないことです!
それによって、撮りこぼしが発生した場合、もう1日撮影が必要となってくる場合もあります。
スタッフ100名となると、ざっと500万円を超える損失となるでしょう。
昔も今も、映像業界は一分一秒を惜しむ世界です。
アーツテックでは、多数のスタッフ・出演者がいる現場でも、間違いなく現場を仕切れる能力を育てています。
監督の仕事。
撮影で言えば、カメラ位置、カメラワーク、俳優の立ち位置、演技、衣装やメイクの仕上がり、光の細工、小道具、美術の配置、など、演出家、監督は現場の全てを指示します。
「テスト」といって、本番前に行うリハーサルがあります。
テスト一発で、何を修正すれば、自分のイメージ通りの画となるのか、監督は瞬時に判断し、各部署に瞬時に伝えなければなりません。
まさに、目をいくつも持っていなければならないような立場です。
現場では、前後左右、上下を見渡せる目を持っていなければならない、と言われたこともありました。
だからこそ、アシスタントという時代に、どれだけ様々な方面に目を向けることができるようになるかが、非常に大切なことです。
助監督、アシスタントという立場は、監督の片腕にならなければなりません。
ツーと言えばカー。
手を出せば、必要なものを、ポンと置いてくれるような、阿吽(あうん)の呼吸が必要です。
阿吽の呼吸を会得して、いちいち指示されなくても、シナリオや企画を見ただけで、監督が何をしようとしているのか、わかるようになること。
少なくとも、師事した人と、全く同じ画を撮れる位にならなければいけません。
そこに、自分がいままで培ってきたアイデア、独自性を加味して、巣立っていく。
それが本当の意味での卒業、一本立ちだと思います。
知り合いのスチールカメラマンがこう言っていました。
撮影時に片手を出したら、弟子がすぐに自分が欲しかったレンズを手渡してくれたそうです。
その瞬間、「ああ、寂しいけれど、こいつともお別れだな」と嬉しいような、寂しいような、複雑な気持ちになったと語っていました。
監督にとって一番重要な力はリーダーシップ力です。
才能よりも、何よりも、この力が一番大事なのです。
たとえ才能が無くても、リーダーシップ力と想いがあれば、いつかきっと監督になれます。
才能や実力は、後からどんどんついて来るものです。
「立場が人を作る」と言いますが、まずは立場を作らせてから教育するのが、弊社アーツテックのやり方でもあります。
どんなに才能があったとしても、おどおどして、気持ちが一歩引いてしまったら、作品のイメージを最後までつらぬくことは難しいですし、そもそもスタッフもクライアントも、そんな人についてくるわけありません。
だからこそ、「強気のリーダーシップ力」が演出家、監督にとって、一番大事になってくるのです。
ここからは、いよいよ、映像制作の工程と、演出家の役割についてお話しさせて頂きます。
まずは、映像、動画制作の工程として、
企画、脚本執筆、撮影準備、ここまでをプリプロダクションと呼びます。
撮影をプロダクション。
そして、撮影後の編集・CG・MAなどの作業は、ポストプロダクションと呼びます。
監督は、プリプロダクションの頭から、ポストプロダクションを終え、完成にいたるまで、全ての作業の指揮を執るのです。
監督がまず始めにやらなければならない仕事が「企画」。
ドラマでしたらプロット、CMの場合はテーマ、コンセプトづくりといったところです。
企画作業とは、建築で言えば設計図の作成。
ここが、一番重要で、一番地味で、一番苦しい作業です。
この段階で間違えたら、その後のスタッフがどんなに立派な仕事をしても、良い作品にはなってくれません。
監督の、いちばん大事な仕事と言っても良いと思います。
企画の立て方についても、様々な本が出版されています。
実際に企画に携わっている方で、どれだけの人が、その手の本が役に立ったと言えるでしょうか。
考え方は学べるとは思います。しかし、そこからアイデアが湧いてくるわけではありません。
人を笑わせたり、泣かせたり、感動させたり、学校で子供たちが真似をするようなムーブメントを起こしたりする方法は、教科書から学べるものではありません。
常日頃から、演出に携わる人間は、インプットをし続けなければいけないと考えています。
あらゆる種類の本を読むことが、まずは基本となります。
ただし、知識を蓄えるだけではなく、自分はこう思う、自分ならこうする、という自分の考えを持ちながら、インプットしていくことが非常に大切です。
そうしなければ、「知識」は膨大でも、「知恵」の沸かない人種になってしまう。創造力が育たないのです。
監督やクリエイティブのトップにいる方は、もちろんですが、相当に勉強していますし、読書量もかなりのものだと推察します。
僕も助監督時代、見た本や映画の、どこのポイントで感動したのか、どこのポイントがどういう効果を生んでいるのか、図解してノートにまとめたりをしました。
人を感動させるためのロジックを自分なりに解析していたわけです。
膨大にインプットを続け、様々な努力を続けていくと、それまでにインプットされた本だったり、映画だったりの情報が、ある時、頭の中で「つながる」という感覚になることがあります。
考えに考え抜いているような状態、集中力が沸点となったとき、かつて仕入れた様々な情報が、変形されたり、つながったりして、新たなアイデアとなって顕れてくるのです。
僕の場合は、まさにそうです。
「空からアイデアが降ってくる」と言う人がいますが、少なくとも僕の周りの監督やクリエイターには、そうした幸運なかたは見受けられません。
プロットやコンセプトを作成した後は、企画を絵コンテやシナリオ(脚本)などに落とし込んでいきます。
自分で、絵コンテを描いたり、シナリオを書く方もいらっしゃいますが、多くの監督は、ここに専門的な脚本家だったり、絵コンテ屋さんだったり、プランナーと呼ばれる人たちを参加させます。
ミーティングを重ねながら、監督に提示されたイメージに沿って、スタッフがシナリオやラフコンテを作成していきます。
ここでも大切になってくるのが、コミュニケーション力。
綿密な打ち合わせの中で「もっとこうしよう」、「ここで、彼と彼女が出会うってのはどう?」、「それ、いいね!いただき!」などと指を鳴らしながら、監督は作品の世界を深め、広げていくわけです。
そして、上がってきた第一稿を見ながら、さらに物語に深みを与えるために、ああしよう、こうしよう、と推敲していく作業に入って行くのです。
くどいようですが、卓越したコミュニケーションの力が、監督には必要であり、この段階に入ると、「自分の世界観」も必要になってくるのです。
次回は、撮影準備、撮影等における演出術をお送りします。
(つづく)
日本屈指のクリエイター、酒井靖之監督が
最前線のクリエイティブの話題から、人生に役立つ情報まで縦横に語り尽くす!
クリエイティブに生きたいすべての人に贈るYouTubeチャンネル「sakaiTV」。
売れる動画・映像制作のパイオニア