「誰も知らない、誰も教えてくれない演出術」Vol.2 -脚本の実際に迫る-
2022.02.21 (Mon)
2022.02.21 (Mon)
「誰も知らない、誰も教えてくれない演出術」Vol.2
〜「脚本の実際に迫る 〜
弊社代表・酒井靖之監督が演出家を志す人々へ贈る、大好評企画「誰も知らない、誰も教えてくれない演出術」の第二回目。
今回は「脚本の実際」と題して、脚本執筆の秘訣を大公開!
Contents
映像作品の設計図ともいうべきシナリオ。
ドラマなどのフィクション作品の場合は、「脚本」や「シナリオ」または「台本」と呼ばれ、ドキュメンタリーなどのノンフィクション作品は「構成」。
企業モノのPVなどは「シナリオ」や「台本」、TV-CMは「絵コンテ」、アニメーションなどは、「ストーリーボード」。
呼び方は違えども、映像作品の設計図となる役割は変わりません。
世の中には「脚本術」と銘打った教科書が数多あります。
Vol.1で紹介した「演出術」のように、これもまた教科書通りに書いたとしても、売れる動画、話題になる映像作品になるかというと、それは難しいと思います。
ハリウッドの脚本家の必読書と言われる「SAVE THE CATの法則」という本があります。
この本は、ヒット映画の構造を分析し、物語の展開やシーン構成を独自に法則化したものです。
確かに、優れた本だとは思います。著者の、法則を導き出す才能には畏敬の念を禁じ得ません。
しかし、この法則に当てはめていけば、必ず面白い映画になるかと言えば、やはり難しいと思うのです。
僕は、アマチュアの映画祭の審査員をさせて頂いています。
多数の作品を観る中で思うことは多々ありますが、1番残念なのは、表現初心者にありがちな、どこかで見たことのあるシーンのオンパレードになっている作品が多いこと。
そのような作品は大抵、オマージュしているシーンを前提にしたプロットの構成になっているので、どうしても展開に無理が生じてきます。
もっと厳しく言うと、オリジナリティの無いものに、僕が高い点数をつけることはありません。
オリジナルを生み出すというのは、すなわちゼロからイチを作り上げる大変な作業です。
アイデアを絞り出す作業、オリジナルを生み出す作業は、何百回、何千回やっても、苦しいものです。
僕は、この工程を「楽しい」と感じたことは、実は1度もありません。
いつも、吐き気を催すほど、苦しい思いをしています。
しかし、その工程を経なければ、新しい表現はできないし、人を感動させ、影響を与える作品にもなりません。
オリジナルを生み出すコツは、前回でも述べましたが、膨大な量のインプットがあってこそ。
脳内で、蓄積されたあらゆるものの化学反応が起こり、新しいものが生み出されていくのだと僕は考えています。
だから僕は、とてつもない量の本を読んできました。
本に関して、僕自身の「マイルール」があリます。
一つは、本は必ず「買って」読むようにしています。
僕自身が「著作者」でもあるからなのですが、それが「著作者」に対しての最低限のマナーだと思っています。
もう一つは、何か心に引っかかる文章がひとつでもあったら、僕はその本を必ず買うようにしています。
僕らのような仕事をするものには、それは「財産」です。お金には変えられない「財産」です。
もったいながっていてはいけません。
何かの企画をするとき、「あ、あの立ち読みした本に書いてあったものだ。あぁ、買っておけばよかった」と、何度悔しい思いをしたことか。
そうして、部屋に入りきらない膨大な量の本となっていきました。
音楽も、あらゆるジャンルのものを、ちゃんと購入して聴くようにしています。
映画も、映画館にしてもブルーレイ(レンタルではなく)にしても、いずれもお金を出して観ています。
お金を出したものしか、自分の身にならない、と考えているからです。
皆様も、良い脚本術について考える前に、良い小説、良い漫画など、傑作と呼ばれるものを片っ端から読んでください。
きっと、皆さまの創造の肥やしになるはずです。
ドラマの台本を書く時、まずはログラインを考えます。
ログラインとは、ストーリーを1行でまとめたもの。
例えば、「恋愛に臆病な女優が、身も心もボロボロになるほどの恋愛を経て、真実の愛を知る話」とか、「離婚寸前の夫婦が、お互い違う人を好きになる。違う人との恋愛を通して、自分の夫、自分の妻の大切さに気づく、家族再生の話」とか。
これは、作品自体のテーマにもなると言ってよいでしょう。
ログラインをもとに、プロット(あらすじ)を書いていきます。
物語の展開を考えていかなければなりません。
まずは、起承転結とか、あまり型にはめないで、縦横無尽に物語を展開してください。
次に、少し時間をおいて、それを俯瞰した目で読んでみます。
難しいと思いますが、視聴者の目で眺めてください。
これは「面白い」か。
オチはうまくいっているか。
良くないと思ったら、どこがうまくいってないのか、じっくり考えて、手を入れてください。
これを何度も繰り返します。
気持ち悪くなるほど繰り返すのです。
必ず答えは見えてきます。
良いプロットを書くには、この方法しか僕は知りません。
プロットが完成したら、いよいよ本番のシナリオ作成です。
シーンごとに、カメラワークを想像し、緻密に作り上げていきます。
セリフも重要です。
僕は、セリフは「リアリティのあるセリフ」が大事だと思っています。
「リアリティのあるセリフ」とは、実際にあるようなセリフ、という意味ではなく、その役の人間が、本当にそのセリフを言うのか、という意味での「リアリティ」。
例えば、物語の主人公が、世界中を渡り歩いてきた戦場カメラマンだとします。
見た目は、無骨な雰囲気。いつも同じミリタリーのジャケットを羽織っている。
そうした主人公が放つ言葉は、何がふさわしいか。
「エチュード」という演出用語があります。
ある設定を作り、役者たちがアドリブで芝居を展開していくもので、主に役者の訓練のために行われるものです。
僕が芝居の演出助手をしていた頃、僕の師匠の演出家は、この「エチュード」の方式で、芝居を作っていました。
「この役が、そんなセリフを言うか!?お前のセリフには、リアリティがないんだよ!!」
先生はよくそう言って、役者に怒鳴っていました。
ドラマはそもそもフィクションなのですが、その役が放つ言葉には、リアリティが無くてはいけません。
書く側にも、ある程度の人生経験が無いと、深みのある脚本にするには難しいと思うのです。
脚本家になる人、作家になる人は、人一倍、様々な経験をしてほしいと思っています。
例えばですが、のたうち回るほどの苦しい恋愛をしたことのない人間が、果たして恋愛ドラマを書けるでしょうか。
薄っぺらい内容、セリフになってしまうか、人まねの展開になるか、いずれかになってしまうと思います。
いずれにしても、机上の空論からはドラマは生まれません。
ぜひ、若い時に、たくさんの経験を積んでください。
それが良い脚本を書くための一番の近道です。
常日頃から、頭の中で空想力を働かせることも大事です。
例えば、電車の向かいの席に、くたびれた初老の男性が乗っていたとしましょう。
この男性は、どういう生い立ちで、どういう人生を経て、今この電車にいるのか。
電車を降りたら、彼にどういう出来事が待っているのか、想像してみてください。
これまでの道のり、これから起こるであろうことを考えてみるのです。
僕も、若き日、電車に乗るたびに、隣の人、遠くに見える人の人生を想像していました。
人物像を掘り下げて、生い立ちはどうだったか、どういう心の傷を持っているのか、趣味は何か。
休日は何をしているのか。
どういう野望を秘めているのか。
あれこれ考えていると、その人のキャラクターに、命が吹き込まれていきます。
これを、「キャラが立つ」と言います。
キャラが立ってくると、そのキャラは独り歩きを始めます。これは本当のことです。
そこから自然に出てくるセリフが、リアリティのあるセリフです。
決して、机上で安易に考えただけのセリフを書かない。
キャラを一人歩きさせ、セリフは、そのキャラに言わせる。
それが、脚本のコツだと思います。
前述したように、ドキュメンタリーの脚本は、「構成」と言われます。
ドキュメンタリーに「脚本」があれば、それは、「やらせ」であるということです。
取材前の構成には骨組みが書かれています。
取材を重ね、編集を重ねていき、「シナリオ」になっていくのです。
人物ドキュメント、社会問題のドキュメント、ドキュメンタリーにも様々な種類があります。
マイケルジャクソンの「THIS IS IT」なども、ドキュメンタリーです。
現実に起きている事象を、そのままつないでいくものがドキュメンタリーとお思いのかたがいらっしゃるかと思いますが、これは大きな間違いです。
たとえノンフィクションであっても、必ず構成作家、取材者(ディレクター)のフィルターを通っています。
つまり、画面で行われている事象は、制作側の主観、想いが入っているものであり、事実そのものではない、ということ。
この作品を通して、何を視聴者に伝えるのか、何を感じてもらいたいのか。
それを考えるのが、構成作家、ディレクターの役目です。
ドキュメントには、テーマはもちろん、結論が一番大事です。
この結論を伝えたいがために、それを裏付けるための取材を重ねていく、とも言えるのです。
結論が無ければ、ドキュメンタリーではありません。それは単なる記録ビデオです。
ドキュメンタリーは嘘か、演出かといった論議があります。
結論から言うと、ドキュメンタリーには作る側の意図がなければ成立しません。
ドキュメンタリーの構成で、セリフまで書かれていたら(つまり台本、脚本)、それは嘘になります。
台本を見せて、こう喋ってください、というのは完全なヤラセ。
しかし、望んだ方向性の展開にするために、現場をそのように設定して、対象をそう仕向けていくならば、それは演出になります。
演出とヤラセの差はこのようなところにあります。
今、テレビ番組の予算は減少の一途をたどっています。
制作費が少ないと、取材日数も少なくなります。
取材日数が少ないと、望んでいるドラマが生まれにくい。
すると視聴率も取れない。
視聴率が取れなければ、自分の立場も危うくなる。
そういう切羽詰まった中で、つい、「こういう風に言ってもらえませんか」「こういうことをしてもらえませんか」というやり取りが生まれてしまいます。
視聴率というオバケの魔力にやられて、ヤラセという犯罪を犯してしまうのです。
やらせと演出は紙一重です。
ドラマチックな展開が欲しければ、制作側でドラマチックな展開になるように、仕向けて行かなくてはいけないのです。
これは実際に制作したドキュメンタリー番組の話です。
南米で、環境についての教育を行っている日本人男性を追ったものです。
アマゾンの森林伐採が、地球環境に大きな影響を与えていることはご存知でしょう。
ブラジルでは、森林伐採の当事者でさえ、自分たちの行動が、地球にどのような悪影響を及ぼしているのかを知らない人が、少なくありません。
ブラジルは格差社会の代表のような国です。
依然として、まともな教育を受けられない人も多く、国の7%(1000万人以上)の方が、読み書きをできないという事実。
その中で、一人の日本人が環境教育を熱心に行い、子どもたちに、森の大切さ、命の大切さを伝えていました。
山にも木にも生命があり、自分たちの都合で伐採を続けていては、地球環境に歪みが出てくることを教えている。
日本からは、真反対に位置するブラジルで、崇高な行動を起こしている日本人がいる。
この方の生き様、思考と行動を通して、「教育の力」の大切さ、「環境教育」の大切さを、視聴者に訴えたかったのです。
「脚本の実際 その3」につづく
日本屈指のクリエイター、酒井靖之監督が
最前線のクリエイティブの話題から、人生に役立つ情報まで縦横に語り尽くす!
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