「誰も知らない、誰も教えてくれない演出術」Vol.3 - 映像制作・動画制作会社 - ARTSTECH(アーツテック)

「誰も知らない、誰も教えてくれない演出術」Vol.3

2020.10.22 (Thu)

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「誰も知らない、誰も教えてくれない演出術」Vol.3

〜動画・映像制作の花形「撮影」の秘技公開〜

 

弊社代表・酒井靖之監督が、演出家・監督を志す人々へ贈る、大好評企画「誰も知らない、誰も教えてくれない演出術」の第3回目。

 

今回は、動画・映像制作における撮影の奥義を大公開!

 

 

■動画・映像制作における、「プロとアマチュアの差」とは

 

プロとアマチュアの差は、撮影に顕著にでる、といっても過言ではありません。

 

最近は、アマチュアの方が使うカメラの性能も、大変良くなりました。

iPhoneのカメラも、正直、プロ機との差をあまり感じないくらいの綺麗さです。

 

また、びっくりされる方もいらっしゃるかと思いますが、デジタル一眼・ミラーレスカメラの画質は、解像度に関しては500万円以上する放送用カメラよりも上なのです。

 

しかし、「プロの撮影はすごくきれいですね。使うカメラが違うんでしょ?」とよく言われますが、実はそんなことはありません。

 

では、どこから差が出てくるのでしょうか。様々な角度から、検証してみましょう。

 

■「撮影術」公開

◆撮影とは 

 

撮影スタッフは、大まかに言うと、いわゆる撮影をするカメラマン、ライティングをするライトマン(照明技師)、映像の調整をするビデオエンジニア(DIT)、音声を収録する音声マン(録音さん)の、4つのパートに分けることができます。

 

撮影はまず、どういう画を撮りたいのか、というところから撮影はスタートします。

監督の頭の中にあるイメージから、まずはカメラの配置を決めていきます。

 

そしてカメラの配置が決まった後に、照明が入り、そして音声の入る位置を決めます。

 

皆さんがよく見るガンマイクは、マイクの特性上、できるだけ対象に近づけた方が、クリアな音が取れます。

しかし、入り方によっては、照明の影が出てしまいます。

それをカバーするために、さまざまなプロ技を使うのです。

 

また、その映像を見ながら、ビデオエンジニアと呼ばれる人たちが、ホワイトバランス、色温度、露出などをコントロールしていきます。

 

 

◆カメラ位置とアングル 

 

カメラマンへの指示は多岐に渡ります。

なぜなら、カメラワークにはすべて「演出意図」が絡んでくるからです。

 

まず、一番基本となるのが、カメラ位置。

 

ここからこういう位置でこういう動きを撮りたい、という監督の具体的な指示から始まります。

 

しかし、カメラ位置を決めるだけでは、演出意図に沿ったカメラワークを得ることはできません。

 

カメラの三脚は、高くもなり、低くもなります。

カメラを所定の位置に置くだけではなく、ローアングルやハイアングルといった、アングルを決めなければなりません。

カメラの高さは、演出に関わってくるからです。

 

ローアングルだと、人間を下から見た画になります。

分かりやすく言うと、下から撮ると、その人物が偉く見えるという特性があるのです。

相手に威圧感を与えるような雰囲気で撮りたいときは、ローアングル。

 

逆にハイアングルというのは、上から見下ろす画です。

人物を卑屈に見せるアングルになります。

 

このように、三脚の高さ、カメラの高さだけで、動画・映像にさまざまな意味を持たせることができるのです。

 

 

◆レンズの選択 

 

次にレンズ選択です。

 

例えば、ドラマを撮る時、いわゆるズームレンズというものは、ほとんど使いません。

 

テレビカメラやスポーツ中継などで使う、望遠鏡のような長いレンズをご覧になられたことがあるかと思いますが、その中には何枚ものレンズが入っているのです。

そうした構造になっているので、どうしてもレンズが暗くなり、開放値(レンズの絞りの値)を明るくとれない、すなわち背景をぼかすことができなくなるというデメリットがあります。

 

スポーツなど、ある特定の人物を、様々なサイズで追っかけたりする場合等に向いていますが、ドラマのように、「背景の夜景がぼけて、美しく映る」といった表現には向いていません。

 

こうした理由から、ドラマでは、主に単焦点レンズ(単玉)というものが使われます。

 

分かっている監督であれば、レンズの指定まで行います。

 

「ここから50ミリのレンズで、F5.6とかF4で撮って欲しい」というオーダーをする監督もいます。

僕はこのタイプです。

写真家でもありますので、自分のイメージは何ミリのレンズが相応しいか、いつからか分かるようになりました。

 

しかし通常、監督はそこまで分からない方も多いので「背景がぼやけた感じがいい」などといった、具体的(抽象的?)な画のイメージを、カメラマンが探り出してレンズ選択をする場合も多いのです。

 

 

◆ぼかし過ぎに注意

 

カメラ初心者にありがちなのが、ぼかすとプロっぽく見えるので、常に背景をぼかしがちなことです。

 

たとえば映画の場合、全編、アイドルのポートレート写真のように背景がぼけていたら、どこで撮ってもいいじゃないか、という話しになってしまいます。

 

ドラマや映画の場合は、そこまでぼかすことはほとんどありません。

あまりぼかし過ぎてしまうと、どこで何が行われているのか、背景に何があるのかといった世界観が分かりづらくなるからです。

 

動画・映像では適度にぼかすことが大事なのです。

 

 

◆パンフォーカス 

 

また、その逆にパンフォーカスという技法があります。

稀代の名優オーソン・ウェルズが監督した『市民ケーン』という映画で使われた、隅々にまでピントを合わせるという手法です。

 

これはレンズを「絞り込む」という技術、すなわちF(絞りの値)という数値をできるだけ大きい数字(F18とかF20)にすることによって生み出される表現です。

 

レンズとは猫の目と一緒です。

猫は暗いところでは、多くの光を取り込もうとして、瞳孔が大きく開きます。

逆に眩しい時には、光を取り込みすぎないように、狭めた目になります。

 

レンズも全く同じ原理なのです。

 

レンズを開放、すなわちF1.2とかF2.0などの場合は、光を多く取り込むために、レンズが大きく開いた状態であり、逆に絞り込むというのは、光をあまり入れないような状態になります。

 

それによって、背景の表現が大きく変わってくるのです。

 

 

◆照明 

 

専門的な話になりますが、暗い環境で「パンフォーカス」にしたい場合、通常の倍以上の照明を仕込むのが普通です。

 

例えば、スティーブン・スピルバーグの『プライベート・ライアン』。

ノルマンディ上陸作戦の激しい画を記憶されている方もいるでしょう。

パンフォーカス独特の、隅々にまでピントの合った強烈な映像でした。

 

あれは当然、太陽(これ以上の強い光源はありません)プラス、とんでもない量のライトを使っていたと容易に想像がつきます。

 

通常映画で使うライティングというのは、普通のテレビの数倍、もしくは数十倍になりますが、ここでは、そのまた数倍ものライト量を使っていたと僕は推測しています。

 

そうでもなければ、あれほどのパンフォーカスの画を撮るのは、非常に難しいと思うからです。

 

 

◆カメラの動かし方 

 

例えば、あるカフェで人の話が聞こえてくる。そこに写っているのは、カフェの隅にある観葉植物。

そこからカメラが動いて行き、ゆっくりとピントが合いながら、主役の二人にピントが送られていく。

 

こんなシーンを見たことがあるかもしれません。

これはカメラワークと言われるものです。

 

僕ならば、カメラマンにこう指示します。

 

「最初は別の場所から入って、カメラ横移動。このセリフの所で、二人にピント送っていって、徐々に二人の関係性が明らかになって、カット」。

ドラマの場合、僕は、TV-CMや、ミュージックビデオのように、意味なくカメラが動くのが嫌いです。

人物の動きに合わせてカメラが動くのが普通。

人物が動いていないのに、カメラが動くと、その先の演出が「ネタバレ」になることが往々にしてあるからです。

 

 

◆撮影に正解は無い

 

このように、撮影だけでも、カメラの高さ、レンズの選択、露出の選択、カメラワークの選択などにより、例えば同じ場所で同じセリフを役者が演じたとしても、十人十色の映像表現ができるわけです。

 

難しいのは、何が正しいということは無い、ということ。

監督や撮影者の個性、感性によって、生まれてくる映像が変わってくるわけです。

 

まさにそれを決めていくのが、演出家、監督の役割です。

 

カメラマンが勝手に、カメラワークを決め、このセリフでこういうピントを送るとか、F値はこのくらいなどと、決定していくことは決してありません。

 

基本的には監督と相談するか、もしくは監督が全部決めるか、いずれかの形になります。

 

 

■「プロとアマチュアの差」とは

 

◆照明の重要性 

 

プロのプロフェッショナルたる所以は、照明にあるといっても過言ではありません。

 

照明、これもまた答えの無い世界です。

 

博物館や、ギャラリーだったり、バーだったり、皆さんも、様々な美しいものを目にされていると思いますが、よく目を凝らして見てください。

 

そこには、必ず、照明の仕掛けがされています。

 

デパートのウインドウディスプレイは、まさにその究極。

 

例えばデパートの化粧品売場も、商品の下からライトが当たるような仕組みになっていたり、なんらかの照明効果により、実物をさらに美しく見せる仕掛けが施されています。

 

 

◆照明は映像の主役

 

映像もまた然りです。

映像の世界を作っていく主役は、この照明にあると僕は考えています。

 

撮影打ち合わせの際、まず決めるのは映像の「トーン(ルックともいう)」です。

作品のもつ雰囲気は、このトーン(ルック)によるものが大きいからです(北野武監督の“キタノ・ブルー”などは、北野作品全体を貫くルック)。

 

難しいのは、照明にも、ライトマン、照明技師によって、十人十色の世界があること。

 

監督がアバウトに「いい感じで」と言っても、照明技師さんの感性にのみ委ねてしまったら、作品のテイストは関係なくなり、これでは本末転倒です。

 

例えば、都会に片隅に住む、過去に影を持ち、ある野望を秘めたサラリーマンの紹介カット。

こんな男が、ホームドラマのような全開の蛍光灯の下にいるとすると、それで雰囲気はぶちこわしです。

 

例えば、月明かりが漏れていそうな窓。

そこから、暗闇の中からうっすらと浮かびあがる一人の男。

この方が、この男のイメージにそぐうと思いませんか。

 

こうした人物像のイメージを作るのは全て「照明」です。

なので、照明のイメージを、監督は事前に、しかも綿密に照明技師に伝えておくことが大事になってくるわけです。

 

 

◆動画・映像制作の現場では迷わない

 

現場で色々な、ああでもない、こうでもない、というような試行錯誤を始めると、考えられないくらいの時間が掛かってしまいます。

 

だからこそ事前に、撮影するカメラマンやライトマンに対して、明確なイメージと、この人物のイメージを表現するのに何が必要なのかを、専門家の知恵も借りながら決定していくことが大切になります。

 

 

◆テレビの世界

 

レンズ選択の章でも触れましたが、僕も修行時代は「ディレクターズ・ファインダー」という、画角のサイズを知ることができる小さな望遠鏡みたいなものを覗いて、画角の感覚を磨く訓練をしていました。

 

ところが常日頃から写真を取るようになってからは、ディレクターズ・ファインダーを使わなくても、指で四角を作って、そこから覗くだけで、何ミリだとどういう画角になり、どういう映像表現になるのか分かるようになりました。

 

こうしたカメラの基本的な感覚が分からないと撮影演出は難しいと思います。

 

哀しいかな、テレビのディレクターさんには、こうしたことが分かる人はほとんどいないと思います。

だから、全てカメラマン頼りになってしまうのです。

 

テレビのディレクターさんを悪く言うつもりはありませんが、テレビのディレクターが演出家や監督と呼ばれないのは、こうしたところに大きな差があるからだと僕は考えています。

 

「ここの場所を、雰囲気良く、いい感じにお願いします」。

 

テレビ番組制作では、こんな感じでディレクターがカメラマンに伝えているのを、よく聞きます。

それ以上は、カメラマンが考えて撮っているのです。

 

ちなみに、僕のやり方は、

「35ミリのレンズで、空を三分の一以上入れてください。主役はその手前のタワーです。パーンして主役が入ってきたら、ズームしていってください。カウントしますから」。

 

 

若き日より、映画、CMやミュージックビデオの世界にどっぷり浸かっていた僕が、テレビの現場に初めて行ったときは、びっくりしました。

普通のテレビの撮影ってこういう風にやっているのだと、逆に新鮮な驚きでもありました。

 

 

レンズは何ミリで、露出はどう、とかいうのはテレビの世界では必要ないのかも知れません。

 

視聴率というモンスターと戦う彼らには、ワンカットの追求よりも大事なことがあるのだと思います。

 

テレビにおいて必要なのは、良い状態で、出演者のキャラクターを出させてあげること。

 

初めてのバラエティ演出時には、制作側や技術側の都合で出演者を待たせてはいけない、ということを学びました。

 

お笑いの人に、いいリズムでいいギャグを演じてもらいたい時に「すみません、バッテリー切れちゃいました」などというのはもっての他です。

 

お笑いの人が、2度同じことをさせられる辛さを考えてみて下さい。

 

ある巨匠のお笑いタレントさんから「もう1回同じことをやらせるのか。やる方の身にもなってくれよ。君たちが視聴者の代わりなんだよ。君たちを笑わせようとしてやってるんだよ、僕は。

2回同じことをやっても、君たち、笑わないだろ? つらいんだよ、こっちだって。そちら側でいろんな事情があると思うけど、同じことをやらせるのは勘弁してくれ。そちらでNGを出さないでくれ」と言われたことがあります。

 

それ以来、彼らが出すギャグに、無理して(?)大声で笑うようにしました。

スタッフ全員にも、それを徹底しました。

 

演出にとって大事なものというのは、必ずしもカメラの技術だけではないということも、その時、学んだのです。

 

 

◆照明は時代の鏡

 

様々な映画を照明に注目しながら見てください。

 

照明の作る世界観がまさにその映画を作るトーン、ルックになっていることが分かると思います。

 

例えば1960年代のハリウッド映画。

アメリカ映画全盛期です。

当時の明るい世相が色濃く反映された、『サンセット大通り』などのミュージカル。

ハリウッドライティングと呼ばれたパッツンパッツンの明るい照明。

 

70年代、ベトナム戦争の暗い世相を表した『カッコーの巣の上で』『イージーライダー』『俺たちに明日はない』を始めとして、アメリカ映画が一転して暗いライティングに変わりました。

 

そして80年代、好景気の絶頂の頃に、リドリー・スコット監督の『ブレードランナー』に代表される、実験的、幻想的なライティングが生まれ、90年代にはブラッド・ピットの出世作となった『セブン』の、ノーライティングに見せるライティングが登場しました(この映画はさらに、“モーションタイポグラフィー”を全世界に流行させた)。

 

今、各界のトップに君臨しているようなクリエイター達は間違いなく、今まで影響を受けた映画として、同じような映画を挙げるのは興味深いところです。

 

80年代の『ブレードランナー』、90年代以降の『ターミネーター2』『セブン』『マトリックス』など。

 

時代の中身もさることながら、映像表現、照明表現においては、その次代の世相を表したライティングになっているので、ぜひご覧になってみてください。

 

 

 

◆僕の好きな照明

 

僕の好きなライティングはやはりナチュラルに見えるライティング。

例えば、モデルさんが朝、大きな窓を背に、伸びをしている映像があるとします。

 

当然、窓側の方が明るいので、人物は暗く見えるはずです。

 

ところが人物が影にならないようにしっかりライティングされているとしましょう。

 

これは現実ではありえません。つまり人工ライティングです。

僕みたいな職業だと、こうしたところに敏感になってしまいます。

 

窓が後ろにあるならば、手前の明るさは落ちていなければならない。落ちすぎると女優の顔が暗くなってしまう。

 

それをどうやって補完して、ナチュラルに顔を浮かび上がらせるか。

それが照明技術なのではないでしょうか。

 

ナチュラルを表現するのも高度な技術が必要なのです。

 

 

◆人間の目の凄さ

 

人間の目は非常に精巧なので、例えば朝日を浴びた窓を背負っている女性は、人間の目には、窓も人物も両方とも明るく見えています。

 

ところがカメラを覗いてください。後ろに明るいものがあったら、人物は真っ暗に見えます。

これだけ光学技術が発達した今の時代にも、到底人間の目には追いついていないのです。

 

それだけ、人間の目は凄いもの。

神が造りたもうしもの、としか説明がつきません。

 

しかし、どうしても手前の人物が暗くなってしまうレンズの特性を利用して、あえて人物を真っ暗にするといった、映像表現も多々生まれてくるわけです。

 

照明とカメラ、レンズの特性をよく考え、また使いこなせる人が、名監督と呼ばれる人に多いのは、れっきとした事実。

 

また、アメリカのハリウッドには、撮影監督というシステムもあります。

 

監督のイメージを技術的に捉え、撮影部、照明部など全てに指示を与える、撮影における総指揮者。

日本においては、監督が撮影監督を兼ねていることが多いと思いますが、撮影監督を育て、こうしたシステムを導入することで、さらに質の高い作品が生まれてくるのではないでしょうか。

 

 

次回は、撮影における「俳優演出」について書きます。

 

 

 

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