「感動の作り方」 〜泣ける動画はいかにして生まれるのか、酒井監督が徹底解説〜
2021.01.29 (Fri)
2021.01.29 (Fri)
「感動の作り方」
〜泣ける動画はいかにして生まれるのか、酒井監督が徹底解説〜
動画・映像制作者、クリエイター必読!
数々の感動ドラマで名を馳せて来た弊社代表・酒井靖之監督が、「感動の作り方」について、徹底的に語ります。
Contents
僕の仕事は映像の演出・監督です。
脚本も自分で書き、様々なスタッフを率いて演出をし、映像を作り上げています。
映像作品の世界には大きく分けて二つの路線があると言えます。
ひとつは、他の意見を一切入れず、自分が本当に作りたいものだけを作り続けていくやり方。
もうひとつは、自分が今、何を求められているかを見据え、自分の立ち位置を確認しながら作品づくりを進めていくやり方。
僕は後者です。
広告やエンターテイメント等、映像にもいろいろありますが、常にエンターテイメントが前者で、広告が後者である、というような短絡的なものではありません。
現在はエンターテイメントと言っても、やはり、需要と供給や、今、視聴者が何を求めているのか等、様々な要素を考えながら作っていかねばなりません。
ひと昔前のような、視聴者や観客を無視する、唯我独尊の映画監督のような人は求められてもいないし、ましてやそれでは飯を食っていくことは至難の業。
もちろん、一生“芸術家”としてやっていく、と腹が決まっているなら、こうした姿勢も素晴らしいと思いますが、映像でご飯を食べていきたいのなら、自分本位な映像づくりは御法度です。
作品を観客、視聴者に見てもらう以上は、観客たちが何を求めているのか、しっかり見据えた上で作品を作っていく、という姿勢を貫いていかなければなりません。
人が何か映像を見たい、という時には、自分の感情に何かを訴えかけてもらいたい、という欲求が必ず動いています。
例えば、ドラマや映画、YouTubeの番組にしても、何も事件が起きない、何も感性に訴えかけるものがないものを、10分、20分も見せられたら、皆さんはどうお感じになりますか?
大抵の方は、何も起こらないじゃないか、と思うでしょう。
あえて、そういう演出をすることもないことはないでしょうが、余程の仕掛けでもなければ、人にはつまらないものを見たいとか知りたいという欲求はないはずです。
つまり、喜怒哀楽の、喜という部分と、楽という部分、喜び楽しむために映像作品はあると思うのです。
感動したい、という欲求も、ここに含まれます。
平たく言うと、作品を見て、笑ったり、楽しい気分になったり、または感動したりする。
そのためにこそ、映像作品はあると言っても過言ではありません。
誰にでも心を動かされるような感動体験はあると思います。
例えば、旅行に行って、人と知り合い、後に丁重な手紙を貰った等、人は誰しも、何かしらの感動体験を持っていると思います。
ただ、余程の感性の持ち主でない限り、日々の暮らしの中で、一生忘れないほどの感動体験を、毎日のように出会うということは難しいのではないでしょうか。
特に感動というものを、人はなかなか経験できません。
それ故に、感動できる作品を見たいという欲求があるのではないでしょうか。
僕もどうすれば人に感動してもらえるかと、この世界に入った当初から考えていました。
ある芝居を見て、すごく感動したとします。
僕は必ずもう一度、それを見ます。
自分は何故にこの作品に心を動かされたのか、プロの目線に立って見直すのです。
このように、感動のロジックを解析するということを二十代前半から始めてきました。
小説もそうです。
最初は一読者として、最後まで読み通す。
読み終えて、感動が残っているうちに、もう一度読み返す。
そして、ロジックを解析する。
これは大変につらい作業なのですが、プロフェッショナルである以上は、感動した作品をしっかりと解析していくということを常日頃から心掛けてきました。
特に僕が研究したのは、名匠スティーヴン・スピルバーグ監督の感動の作り方、仕立て上げ方です。
彼の初期の代表作に『E.T.』があります。
地球に置き去りになった宇宙人と少年の交流を描いた名作です。
(観ていない方は是非ご覧になってください)
この作品の感動ポイントには大きな二つの山があります。
ひとつが、E.T.が瀕死の状態になる時。
もう一つの山が、最後の少年とE.T.の別れのシーン。
スピルバーグの感情の動かし方の巧みなところは、必ず、少年とE.T.の他に、第三者を入れていることです。
E.T.が瀕死の状態になる時。
E.T.のことを、大して好きではない兄がいます。
その兄が、E.T.が死んでしまう、となった時に、激しい感情を露わにします。
そこに皆が心を動かされるのです。
これがE.T.と少年だけの関係だったら、ある種の想像が出来てしまうのです。
当事者以外の人物を上手に使い、視聴者の想像を裏切ることによって、悲しみや感動を増幅させるわけです。
また、最後の別れのシーン。
少年とE.T.が指先と指先を合わせて、心を通わせます。
そこにジョン・ウィリアムズの感動的な音楽が響く。
感動のクライマックスに持って行くスピルバーグ監督の演出力は、見事と言うしかありません。
皆が教科書と呼ぶべき手法を、スピルバーグは必ず使ってきます。
言葉にしてしまうととてもチープになってしまいますが、あの作品を見て感動しない人が果たしているのでしょうか。
私たちが潜在的に持っているところの、「感動したい」、「あらゆる人と心を通わせたい」という、人間が根源的に持ち合わせている欲求を、緻密な脚本と演出で揺さ振り、掘り起こしてくるのです。
音楽の使い方、撮影、カット割り、全てを緻密に計算して、皆を感動の坩堝へと持って行く、これがスピルバーグ監督流の感動の作り方だと思っています。
スピルバーグ監督の作品を始めとして、様々な監督の映画を観ながら、僕も感動の作り方を研究してきました。
僕はスピルバーグのような壮大な作品を作れる資質はないので、僕は僕なりの感性を生かした感動作りというものを目指してきました。
人間というものは、根底に親が子を愛する気持ち、子が親を愛する気持ちを必ず持っていると思っています。
様々な事情から、子が親を憎み、親が子を憎むような悲しい事ももちろんあるでしょう。
でも、根底には必ず、この親子愛が存在していると思うのです。
僕は、今がどうであれ、こうだったらいいよな、と思わせる、身近な願望を作品作りに入れていくようにしました。
僕が書くものは、突拍子もない、人生でそんなこと起こるわけないだろう、というような奇跡の連続や、偶然の連続というものを、一切排した作品作りを心掛けてきました。
一時期、テレビドラマを見ることが辛くなった時期があります。
あまりにも偶然の連続、奇跡の連続で、むりやり感動に持っていこうとしていて、演出がクサ過ぎるために、逆に感動できないような作品ばかりでした。
音楽も、アーティストの歌の力を借りて、強引に感動に持っていこうとする。
そこにひどい演出が相まって、せっかく感動したいのに感動できない、という事態になる。
これは非常につらい。
笑おうと思っているのに笑えない。
泣こうと思っているのに泣けない。
これでは観る人にフラストレーションを溜めるだけのものなってしまいます。
僕たちも気をつけねばならないのですが、脚本的にも演出的にも、テクニックに頼り過ぎるとこのような結果に陥る危険性があるのです。
僕が一番思っている感動の素養は何かと言ったら、やはり、いろいろな体験をすること。
感動した話、もしくは辛い経験をした話を、どれだけ体験しているか、ということがベースになると思います。
例えば松任谷由実さん。
彼女の初期の代表作「海を見ていた午後」の中にある「「ソーダ水の中を貨物船が通る」というフレーズがあります。
この一言で、その情景が浮かんでくる。
僕は彼女のような、リアリティのある歌詞を書ける人が、オンリーワンのシンガーソングライターだと思います。
しかし、松任谷由実さんが、歌詞の全てを実際に体験して書いたということはないと思います。
どんな人でも百も二百も感動した体験をしているかというと、それはあり得ません。
ただし、人から聞いた話や自分が経験した話を、様々な場面で応用していく想像力があれば、感動を生み出す詞だったり、脚本を書けると思います。
例えば、自分が何かで感動したとする。
そこで、なぜ感動したのかを考える。
その感動した時に似た光景や、その時に感じたことをしっかり覚えておく。
そして、それをそのままではなく、もう少し、ドラマティックなものに置き換えて行く。
別れ話をしているファミレスで、飲んでいるアイスティーのグラスに、その光景をじっと見ている後ろの席の人が映り込んでいたとしましょう。
ここで感性が豊かな人だったら、別れの場所はこんなファミレスではなくて、港が見えるカフェに置き換えるでしょう。
そして飲んでいるグラスに映っているのは、面白おかしく覗き込んでいる人ではなくて、港を行く船が映っていれば、ロマンティックではないでしょうか。
このように、自分が経験したことを、ドラマティックに置き換えていくだけで、感動というものは作り上げていけるのだと思います。
経験を積むことは大事。そしてそれを応用していく力というものも、非常に大事だと思うのです。
昔、Vシネと呼ばれるオリジナルビデオで、僕も結構な数の作品を作らせていただきました。
Vシネというと、やくざ物というイメージが強いですが、僕が担当していたのは、いわゆるストーリー物。
様々な作品の演出に携わる中で、自分の作風というものが段々構築されてきました。
自分には壮大なスケールの物を作る技量は無い。
では、自分の強みは何だろうと考えた時に、僕はそもそも演劇を追求してきた、いわば芝居出身。
芝居の中で、感情の機微を見せていくということが、少しだけ人よりも長けているのではないか、と気付きました。
ぼくは前述したように、大げさに感動させたり、泣かせたりするような演出が苦手です。
苦手と言うより、嫌い。
どうしてもクサくなってしまうドラマが多い中、自分は「心を動かされたな」「何だか分からないけど、ジーンと来ちゃったな」という感動への持って行き方を追求しようとある時考えました。
そのためにはどういうようなシチュエーション、どういった言葉で、人間は心を動かされるのだろうか。
それを常日頃から考えるようになりました。
また、自分の体験も含めて、自然で、日常の中で起こりうることのみでの「感動の作り方」を追求してきたつもりです。
最近制作した中で、プライムスター保育園の『子どものゆいと30歳のゆい』という作品があります。
これは埼玉県和光市にあるプライムスター保育園という保育園の製作・プロデュースで、僕が監督をさせて頂いた仕事になります。
先方の責任者の方が、僕の作品を見て、「酒井監督にショートドラマを撮ってもらいたい」と、指名を受けて制作した作品です。
先方の伝えたいことは、
本当の保育というものは、将来、自分でしっかりと生きていく力を養うこと。
自分で考え、自分で行動し、自分で解決する。そのための土台を養う。
それが保育の本来の目的である、ということ。
しかし、親の人気取りに走るあまり、本来の保育の目的を失っている現状がある。
こうした現状にアンチテーゼを唱え、最後は感動できるような内容、ドラマにしたい、というオーダーでした。
僕は最初、非常に難しい、と思いました。
通常、保育園を描くとすると、主役は保育園の先生と子どもということになります。
そうすると、なかなかドラマが生まれません。
ドラマを生むためには、子どもに何らかの事件が起きるとか、そうした姑息な脚本になりがち。
そして最後に感動へと持って行くとなると、これはなかなかに難しい。
そこで、僕は母親の方に目線を持っていったのです。
通常、保育園は母親が立ち入ることができない世界なので、どうしても親は蚊帳の外という立場になってしまいます。
そのような中で、母親も子どもの成長に伴って、成長して行くというストーリーにしてはどうだろうか、ということを思いついた訳です。
「アイデアは思いつくというより、たどり着くもの」なのです。
そこからはスラスラと書くことが出来ました。
僕の感動の作り方は、言うなれば、特別なことではなく、一生懸命、悩み、苦しみ、何が正解か分からないようなところで悩んでいる人の背中を押してあげるというか、「あなたは間違ってないんだよ」と伝えてあげるということです。
親御さんも、子どもを育てながら、子どもに成長させてもらっているのだと思います。
だから、そうした部分を、少しだけでも感じてもらえて、視聴者に「自分もこうだったよなあ」「親になったら、自分もこう考えるのかな」ということを考える、感情の余白の部分も作ってあげること。
それが僕の作品作りのモットーでもあるし、ポリシーでもあります。
全てを語り、全てを見せ過ぎることは、僕は映像作品としては良くないと思っています。
やはり、映画でも一流の監督は「そうだよなあ」と考える余地を与えてくれます。
全部を説明されては、こちらの気持ちも台無しになってしまうし、良い悪いを他人に断定されたくもありません。
『子どものゆいと30歳のゆい』という作品には、現実では起こりえないような出来事はありません。
日常の何気ないシーンを描きながら、子どももしっかりと自分らしく輝いていき、母親も大事なことに気づいていくという、たったそれだけの作品です。
でも、僕はそれで良いと思っています。
これ以上に、過剰な何かを加えるというのは、やり過ぎなのだと自分では思っています。
僕は生来の性格からか、やはり、人が苦しんだり悩んだりしている中、皆が感じる気持ちに対して、「大丈夫なんだよ」と肯定してあげられるモノ作りをしたいと考えています。
もしかすると、自分の作品の視聴数やPVが高い理由は、そこにあるのかもしれません。
感動を狙って作るというのは、非常に難しいことです。
いつも「感動させて下さい」というオーダーを受けますが、これは簡単なことではありません。
自分自身がいつも気をつけていることは、やはり、技巧に走り過ぎない、自分が感動した体験をしっかり映像に置き換えていくということです。
今後も、作品作り、感動づくりに、もがき苦しんでいくとは思いますが、映像、動画で感動を与えていくということに、これからも全力で挑戦し続けて行きたいと思っています。
どうぞ、酒井靖之の今後の作品にご期待ください。
(筆者 酒井靖之)
日本屈指のクリエイター、酒井靖之監督が
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