ココロに響くナレーション 〜実践ナレーション術〜
2021.02.27 (Sat)
2021.02.27 (Sat)
ココロに響くナレーション
〜実践ナレーション術〜
心に響くナレーションとは? ナレーターが最も大切にすべき事とは?
弊社代表・酒井靖之監督が、ナレーションの極意について語ります。
ワンランク上を目指したいクリエイター、ナレーター志望者は必読です!
Contents
ナレーションの録音は、映像制作工程の最後に行われ、まさに作品に命を吹き込む作業と言えるものです。
ナレーションの録音に至るまでには、企画、撮影準備、撮影、編集と、膨大な時間と、関わる全ての人の情熱が込められています。
ナレーション録音とは、その作品が心を動かすものになるか、そうならないかの、全てを決すると言っても過言ではない、非常に重要な工程です。
まさに、ここが勝負の分かれ目。
それだけに、ナレーターの選定は、監督・演出家にとっては非常に難しいものなのです。
ナレーションの録音は時間にすると、たった数時間の作業ではありますが、僕は作業後に口もきけなくなる程の集中力を使って、この命を吹き込む作業に臨んでいます。
僕は、ナレーターのボンバー森尾さんが主催する J – STAGE というプロ向けのワークショップで、
かれこれ十年以上にわたって、プロ向けの実践的な講座をやらせて頂いています。
そこで口癖のように言っている事が、「上手いからといって、人の心には響かない」ということです。
あまり感情を入れない、いわゆる“ストレート・ナレーション”というものを上手に読める人は、少なくありません。
しかし、昨今、ストレート・ナレーションというものは、敬遠される傾向にあります。
ただ単に上手ければ良いのだったら、アナウンサーが一番上手です。
ニュースならいざ知らず、某国営放送のアナウンサーのような、滑舌の良い、きれいなナレーションを入れたとしても、作品として際立つかというと、それは難しいと思います。
たとえば、キレイな滑舌のアナウンサーが、バラエティ番組のナレーションをやったとして、果たして面白いものになるでしょうか。
原稿をただ上手に読み上げるだけのドキュメンタリーが、人の心を打つでしょうか。
結論を言うと、上手いから人の心に響くわけではないのです。
ナレーターは、「上手くならなければ、仕事が増えない」というスパイラルに陥っている人が多い。
しかし、ひたすらに上手さと技術だけを勉強していっても、仕事は増えないのが実情です。
皆さんの中には、新劇の舞台をご覧になった方もいらっしゃると思います。
本当に上手な方は、舞台上でもわざとらしさはありません。
しかし、いわゆる大根役者と言われる人達は、精一杯演じ過ぎてるが故に、演技のあざとさが前に出過ぎています。
おかげで、観る側が、その世界に没入できない。
これは新劇俳優に陥りがちの傾向です。
演じていることがバレた瞬間に、客は醒めてしまい、その世界に入れなくなるのです。
また、滑舌も良く、きれいな声であり過ぎるために、作品の世界にマッチせず、感動できない、という例もあるのです。
ナレーションも、「作品」に調和していなければ、どんなに上手くても、滑舌が良くてもダメなのです。
ナレーターには、映像をしっかりと見ないで、原稿ばかりに目が行き、ナレーションがどこで入って、どこで終わると気持ち良いのかな、ということを考える余裕も無さそうな人がいます。
悪いナレーションは、作品と調和していません。
原稿を読むだけで必死なのかも知れませんし、経験もないのかもしれませんが、ただ上手に読もうとしているだけでは、伝える力は弱まります。
例えば、保険会社の説明の映像だとしましょう。
当然、上手に読むことが必要です。
ケガや死といったナーバスな内容は、ふざけたり、テンションを上げたりすることは出来ません。
では、アナウンサーのように、上手に読めば相手に伝わるかというと、僕はそう思わない。
僕が仕事で使わないのは、単なるストレートです。
ストレート・ナレーションでも、強弱を巧みにコントロールし、伝わるナレーションにすることが必要なのです。
声優、ナレーターになる人は、持って生まれた素敵な声をお持ちの方が多い。
しかし、声の良い人にありがちなのが「演技下手」。
声の良さだけで勝負するから、「伝わる力」が弱い。
声が良いだけでは、視聴者に何も伝わってこないのです。
繰り返しますが、新劇俳優(あくまでも大根役者)がよく通る素敵な声で熱演していても、伝わらないのと一緒です。
声の良さに頼りすぎず、感性の切っ先を磨いてほしいものです。
良いナレーションとは、編集時には80点だったものを、最後に120点に押し上げてくれるもの。
素晴らしいナレーターは、映像を一度見ただけで、監督の意図や、視聴者に何を伝えればいいのかを見抜きます。
全体観をしっかりと把握した上で、あざとくなく、その作品の語り部となり、また作品を盛り上げてくれるのです。
役者で言うと、まさに「名優」です。
ドラマで言うと、演技していることがバレバレなあざとい芝居を見ると、誰しも嫌悪感を抱くでしょう。
観客がしらけているのに、一生懸命に汗をかいて、絶叫芝居をしている俳優さんになってはダメ。
ナレーションも同じなのです。
「このナレーションは情感がこもっていて、心に染み入ってくる」
こういった評価を得るには、上手さだけではダメなのです。
興味深い話ですが、最近、ドキュメンタリー番組等で、ナレーターではなく、役者が起用されることが多くなっています。
十年ほど前の、宮沢りえさんあたりからでしょうか。
これが意味するところはーー
どうしてもナレーターさんはナレーションが中途半端に上手すぎて、人の心を打てないと、プロデューサー面々に思われている節があると思います。
前にも語りましたが、上手さだけではダメ。
上手さを超越する技こそ、本物の「術」だと思うのです。
例えば「情熱大陸」でお馴染みの窪田等さん。
窪田さんはこちらのキューボタンが要らない人です。
タイミングの時間が全く書かれていないナレーション原稿をお渡ししたところ、映像を一回見ただけで、窪田さんはキュータイムが分かりました。
つまり、どのタイミングでナレーションを入れるべきかが、分かるのです。
作品をそこまで見切れる、ある種、演出と同等か、それ以上の目線で作品を見た上で、ナレーションも「こうした方が伝わり易い」というアドバイスまで頂ける人でした。
僕が若かりし頃にも、アドバイスを頂き、ここまでプロフェッショナルな人もいるのかと感激したものです。
また、窪田さんは僕の指示を守らない時もありました。
もう一拍遅らせて入った方がいいよ、と、自分のタイミングで入って行きます。
そして大抵の場合、そのタイミングが正しいのです。
演出の目線に立ち、また視聴者の目線にも立って、ナレーションを吹き込んでいるのです。
窪田さんは声も良いし、圧倒的な存在感もありますが、ただそれだけではなく、作品全体を見て、その作品の見事な語り部を演じ切る。
これがプロフェッショナルの所以であり、技なのではないでしょうか。
もう一人驚いたのが、ちびまる子ちゃんのナレーターとして愛されてきたキートン山田さんです。
以前、僕のオリジナルの電子書籍を読んでいただいたことがあります。
ある種、シリアスなドラマです。
もしかすると、キートンさんには合わない題材だったかも知れません。
けれども、あくまでキートン山田としての持ち味を崩さずに、そして、演出意図もしっかりと理解した上で、僕が抱いているイメージの数倍上の作品にして頂きました。
僕が考える良いナレーターというのは、自分が想定しているレベルを超えてくるナレーションです。
監督は、出来上がりに対して、ある種の想定を持っています。
予定調和で、想定内の出来栄えで終わらせることは、モノづくりに関わる人なら、皆、嫌だと思います。
僕も嫌です。
だからこそ、それを超えてくれるナレーションを求めているのです。
それには圧倒的な演技力が必要になってくると思います。
第一次アニメーションブームの頃、当時の声優さんが紹介されている本を買ったことがあります。
そこで代表的な声優の方々が、ほとんど舞台出身(というか現役の舞台俳優)だったことを知りました。
山田康雄さんが、声優さんになりたい人へのコメントで「声優を突き詰めるなら、演技ができないとダメだ。それができれば、声の仕事もできます」という趣旨のことを書いてらっしゃったことをよく覚えています。
ナレーターさんには、自分とは違う人格にきちんと成り切る「演技の基本」を踏まえた上で声の仕事をしないと、ただ上手に読んでいるだけの、薄っぺらいものになってしまうことを知って頂きたいのです。
遠藤憲一さんにナレーションをお願いした時のことです。
僕のイメージと遠藤さんのイメージが違い、数度ダメ出しをしたところ、一触即発の空気になりました。
「監督、俺は納得いかない」とブースから出てきた遠藤さん。
遠藤さんとの話し合いには時間が掛かりましたが、最後には納得してもらい、最高のナレーションを吹き込むことが出来ました。
彼を見て思ったことは、命がけでナレーションを吹き込んでいる、その姿勢です。
しかし、そちらが命がけなら、こちらも命がけです。
遠藤さんは、しっかりと訓練されたナレーターさんよりは、技術的には劣るかもしれません。
けれども僕は、その作品に関しては、どんなに上手いナレーターさんであっても、遠藤さんのナレーションの情感、作品の際立たせ方には勝てなかったと思います。
声の良さだけで勝負しない。
「術」を越えた「心」で勝負する。
そうした姿勢と、命がけの想いでナレーションブースに臨んでいるからこそ、人の心に響くナレーションが吹き込めるのだと思っています。
またナレーションは、尺に合わせていかなければならないという難しい作業があります。
良いナレーターさんは「巻いて下さい」という指示に対して、巻いていないように上手く巻いたり、文と文との合間のブレス(呼吸)を調整することで、急いでいる感じを与えずに、早く読んでくれます。
そうした技術は、ナレーターなら当然必要です。
しかし、そうした技術だけを磨こうとしても、やはり今の時代、メインのナレーションを任されるということはなかなか難しいと思うのです。
視聴者は良い作品を見たいのであって、上手なナレーションを聞きたいわけではないことを知ってください。
言葉は悪いですが「伝わりゃ、いい」のです。
僕がナレーションをした方が、このナレーターよりも視聴者に伝わる、と思うことは沢山あります。
何度も言いますが、ただ声が良く、技術があるだけでは、全然伝わらないのです。
言葉だけがやたら綺麗な、まがい物の宝石を売るサラリーマンのようです。
営業職も、売り上げを上げる人は、言葉の上手さよりも、誠実な姿勢がお客様に届く人。
誠実さを通して行くには、おべっかやおべんちゃらが上手いだけではない。
そうしたこととナレーションは似ているのかも知れません。
■第三者からのアドバイスを大事に
もう一歩上に行きたいという人は、第三者にきちんとアドバイスをもらうことが大切です。
自分がやりたい事と、相手に与える印象というものは、往々にして違います。
お笑い系が得意だと思っていても、人が聞けばシリアスな感じが向いているのかもしれない。
仕事を増やして行きたいのだったら、他人に意見を貰うことを恐れないことが大事なのです。
■予定調和を壊す勇気
バラエティがやりたいと思っていても、自分の個性が、真面目で誠実なナレーションに向いているとすれば、相手に与えている印象の方を、自分の強みにしていく勇気が必要です。
そして、基礎的な技術がある人は、自分の上手さを、いったん壊すこと。
自分の予定調和な読み方を壊してみるのです。
自分のパターンが確立できていても、それで売れないのだったら、一度、自分のパターンを崩して、違うパターンを確立させること。
いずれにしても、大切なことは「勇気」を持つことです。
自分は下手だからキャスティングされない、と勘違いされている人が非常に多いと感じます。
それは偉大なる勘違いです。
下手だから頼まないのではありません。
例えば、ディレクターは「明るい感じ」とか、「健康的な感じ」とか、「誠実そう」とか、「安心を伝えられる感じ」とか、ある方向性を持ってキャスティングします。
だから、何にも属さない、雰囲気の無い人は、なかなか選ばれません。
要するに、没個性すぎると、展示会のMCさんと一緒で、「別にその人じゃなくてもいいんじゃね?」ということになってしまいます。
そうしたナレーターさんは、個性とは無縁の、没個性の作品にしか起用されないのです。
ですから、自分はどんな方向に向いているのか、自分が持っている個性を見極め、得意分野をひとつ確立するところから、次につなげて行くことが大切だと思うのです。
例えば、自分は安心感というものを伝えられる雰囲気がある、と評価されているとしたら、その安心感が中途半端だから、キャスティングされないのです。
ならば、圧倒的な安心訴求が出来るナレーションを目指すこと。
それにも、やはり勇気が必要です。
安心感を出すのがすごく上手いナレーターさんの声を録音するなりして、どこをどういう風に読んでいるのかを解析し、真似てみる。
そして、そこに自分の個性、言うなれば「オンリーワンの個性」を加味して、目標を超えて行く。
そうすれば、おのずと仕事は増えると思います。
つまり、とにかく得意分野を持て!ということです。
全部が中途半端な人はいつまでも売れません。
今、ナレーターや声優は、人気職業になっています。
俳優などの安定しない職業よりも、ナレーターは一本で何万円、何十万という世界ですから、職業としてよっぽど成立しています。
これからはナレーターになりたい、という人も増えていくことと思います。
人が増えれば増えるほど、自分が埋もれてしまう可能性もあります。
繰り返しますが、ひとつの得意技と、オンリーワンの個性。
滑舌だけではなく、情感の出し方とか、結論のまとめ方等のニュアンスを出す術は、最低限培った上で、自分の得意技、個性を際立たせて行くのです。
これは作家も演出家もカメラマンも同じことだと思いますが、超一流になるには、生半可な努力でなれるものではありません。
本当にナレーターとして生きていきたいのならば、諦めずに挑戦し切って行って欲しい、と心から願っています。
アルバイトをやりながら、ナレーターを目指している人、もしくはナレーターをやっている人も多いと思います。
厳しいようですが、アルバイト生活に安住してはいけません。
アルバイトを辞めて、「これでキャスティングされなければ、自分は飯を食えない」という位の切羽詰まった気持ちでやってみろ、というのは今の時代では酷でしょうか。
でも、そう言いたい気持ちはあります。
僕も俳優時代はそうでした。
「このオーディションに通らなかったら、俺は今月何も食えない」というくらいの気持ちで毎回勝負していました。
アルバイトをしながらオーディションに落ちる日々が、当たり前になってしまっているようではいけません。
オーディションに通らなかったら、その日は眠れないくらいの悔しい思いをしながら、自分には何が足りないのかを、自分の心を偽らずに見て、自分との戦いに勝利していってもらいたいと思います。
繰り返しますが、それには勇気が必要です。
まさに「勇気」こそが、人生でも、ナレーターとしても、自分が大きく羽ばたく為の大切なキーワードだと思います。
僕も偉そうな事を言っている以上、勇気を持って、自分の弱さ、そして自分自身と戦っていきたいと決意しています。
おわり
日本屈指のクリエイター、酒井靖之監督が
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