一流の撮影術、演出術 〜一流と二流の差は、どこで生まれるのか〜Vol.1
2023.01.20 (Fri)
2023.01.20 (Fri)
映像業界で高みを目指す全ての人へ!
二十数年に渡り、映像業界の第一線で活躍を続けてきた、弊社代表・酒井靖之監督が説く
「一流の撮影術、演出術 〜一流と二流の差は、どこで生まれるのか〜Vol.1」
実体験から心得まで、あらゆる角度から、“一流” について、語り尽くしていただきます!
あなたは、良い写真 撮れますか———。
それは、どんな写真ですか———。
Contents
よく聞かれる質問である。
簡単に良い写真を撮れる方法があるなら、僕が教えてもらいたい。
「良い写真」の定義は曖昧である。
人によっては良い写真でも、誰もが良い写真と思うとは限らない。
結局のところ、自分が満足する写真が良い写真なんだろうと思う。
「写真が上手くなりたいなら、自分が満足する写真が撮れるまで、撮り続けるしかないよ」
と言うと、
「そんなこと言わないでさ、なんか良い方法あるんでしょ?教えてよ」
と言われる。
何を撮りたいのか、それによって違うが、ポートレイトなどの人物写真は「もうひと寄り」した方がいいと思うことが多い。
遠目から人物を撮っても、良い写真にはならない。
近づいて撮る方が、不思議と良い写真になる。
かの有名な戦場カメラマン、ロバート・キャパも、こう語っている。
「君がいい写真を撮れないのは、あと半歩の踏み込みが足りないからだよ」
つまり人物写真は、いかに被写体に接近できるか、これがコツである。
ただ、カメラが近づくと、人は誰しも緊張するもの。
そうすると、良い表情とは対極の表情になってしまう。
「笑って」と言って、素敵な表情で笑える人などほとんどいないのである。
知らない人を撮るスナップ写真ならなおさら。
近づこうものなら、「あんた何?誰?」という顔をされる。
当然である。
映像と違い、写真家としての僕は、スナップ写真を撮ることが多い。
照明や小道具など、余計な演出な一切しない。
過剰な演出は、仕事で十分。
僕の写真、アーティスト活動のテーマは、
「その人の人生の、輝くその一瞬を切り取る」こと。
僕は、一枚を撮るのに多大な時間を使っている。
中国を題材にした「happy China」という写真展で使った写真は、ほとんどが人物写真だが、一枚撮るのに、だいたい一時間くらいかけている。
最初にまず、「あなたを撮りたいんだけど」と声をかける。
訝しげな表情を浮かべているその人に、自分が日本人であり、写真家・映像作家であると告げる。
そして、この写真を何に使うのかを伝える。
たいてい、「なんで自分に興味を持ったの?」と尋ねられることが多い。
そして僕は語りだす(中国語はほとんどダメなので、通訳付きだが)。
あなたに興味を持った点。
中国と僕の出会い。
中国の好きなところ。
日本人を代表して、日中友好をさらに築いていきたい旨。
そして、日中友好の展示会を、自費で開催してきた事実など。
通訳付きなので、ここまで話すとかなり時間がかかる。
そして、相手の仕事や、過去、趣味の話まで聞く。
話し終えた後、「最後に、一枚撮らせて」と言うと、たいていは気持ちよくOKしてくれる。
安心したかのように、最高の笑顔を見せてくれるのである。
自分と被写体との「見えない壁」を取り払わない限り、良い表情は見せてくれない。
しかし、僕はこれを「方法論」だとは思っていない。
人として、当たり前の事をしているだけ。
盗み撮りなどもってのほかである。
信頼関係がないと、素晴らしい笑顔など撮れない。(相手が俳優なら別だが)
どんなカメラテクニックをもってしても、ナチュラルで素敵な笑顔は、簡単には撮れないのである。
その人の内面まで映し出すような写真が撮れるとしたら、その人のテクニックと言うより、撮る側の
「人間力」の高さだろう。(私のことではありません)
修行時代、読んだ本にそのような事が書かれてあり、師匠にも同じことを言われた。
一流になりたかった自分は、早速行動に移したのである。
向かった先は、今は閉店してしまったが、当時、フランス料理の最高峰と謳われた「マキシムドパリ」。
若干20歳の自分は、ジャケットを新調し、一人でテーブルに着いた。
一流ホテルで、配膳のバイトをしていたおかげで、テーブルマナーには困らなかったが、ワインのテイスティングがよく分からず、戸惑った。
ウエイターさんは、僕に恥をかかせないよう、上手にリードしてくれたのを覚えている。
料理も雰囲気も、とにかく最高だった。
トイレも本当に綺麗に磨かれていて、一流店の底力を知った。
支払いは5万円くらいだったと記憶している。
とにかくお金がなかった頃なので、会計額を聞いて一瞬戸惑ったが、その分の価値は十分にあった。
大満足だった。
以来、お金を貯めては、足繁く一流店に通った。
その店に入って、自分の目で見て、自分のお金で食べてみなければ、その店の価値は分からない。
名声は、あくまでも人の評価であることも知った。
銀座にある、とある有名な寿司屋。
ここで僕は非常に不愉快な思いをしたのである。
隣に座っていたのは、とある有名な御仁。
その方と僕は、明らかに差別されていた。
その人が職人に話しかけると、不必要なほどの愛想の良さで応答するが、僕が話しかけると、返事ひとつしない。
有名人の常連さんと、若造の一見客じゃあ、しょうがないと言われそうだが、僕は許せなかった。
どんなに有名になろうが、自分はこのようなことはしないと誓ったのもこの時である。
しかも、お寿司は確かに美しく握られているが、味はイマイチなのである。
その後、そのお店と同等の評価を受けている、これまた銀座の有名寿司店に行った。
ここで僕は一流の底力を見る事になる。
最初に、大好きなコハダを注文した。
見たこともない、美しい寿司のかたち。
口に入れてみると、絶妙な締め具合の魚と、これまた絶妙なシャリが見事に調和していて、感激を通り越して、感動すら覚えたほど。
何を注文しても、今まで味わったことのない、まごうことなき最高峰のお寿司がそこにあった。
僕の隣に座っていたのは、いかにも地方からやってきたであろう、若いカップル。
年の頃は、僕と同じくらい。
お金がなかったのだろう、カップルは、二人で一人前の握りを注文した。
主人は嫌な顔一つせず、笑顔で話しかけながら、寿司を握った。
出てきたお寿司は、二人で分けやすいように、お寿司が丁寧に、半分にカットされていた。
二人は、「美味しい!」を連発して、大満足で帰っていった。
主人は帰り際の二人に「今日は遠くから本当にありがとうございます。是非またお越しください」と言った。
僕は、本当の一流のお店、一流の人格を見た気がした。
僕は考えた。
この主人も、この領域に至るまで、想像もできないほどの過酷な修行時代があっただろう。
若き日、「絶対日本一の寿司職人になる」と誓って、大変な努力をしてきただろう。
そして、一流の名に恥じない仕事。人間力。
これが、一流と二流の差なんだ、と。
僕はこの時誓った。
「俺も一流になる。そして、一流の人格も身につけてやる」と。
思えば、一流を知るために、大変な散財をしてきた。
でも、自分に投資してきた分は、しっかり元を取れる。いや、それ以上の財産となって、しっかり自分に返ってくる、ということを、身を持って経験させていただいた。
(文:酒井靖之)
引用:酒井靖之ブログ どっこい、俺は生きている。
『良い写真を撮るには』 https://ameblo.jp/sakaiblog/entry-12273793842.html
『「撮影、演出」という仕事に大切なこと』
https://ameblo.jp/sakaiblog/image-12009794215-13265217282.html
『「撮影、演出」という仕事に大切なことVOL.2』
https://ameblo.jp/sakaiblog/image-12011380650-13269256989.html
『一流になるには、一流を知る』
https://ameblo.jp/sakaiblog/entry-12268397219.html
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