「オーディションとは何か」 ~激戦を勝ち抜くための、オーディション必勝法~
2023.08.10 (Thu)
2023.08.10 (Thu)
皆様も様々な映画やドラマ等で、登場人物がオーディションに挑戦する、といった場面を一度はご覧になったことがあるかと思います。
しかし、オーディションについて、なんとなくは知ってるつもりでも、実際にそれが、どのような流れで、どのように行われているかは、部外者にはなかなか分からないもの。
今回はオーディションの実際について、アーツテック代表・酒井靖之監督にコラムとしてまとめて頂きました。
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映像業界では、よりクォリティの高い作品を目指して、ドラマならば俳優さん、ビューティ系のCMやPV(プロモーションビデオ)ならモデルさんのオーディションが、日々行われています。
最近ではインスタグラムやYouTubeで活躍するインフルエンサー等の方たちも、映像業界で活躍しています。
これは、まさに現代の演者のスタイルのひとつだと思っていますが、こうした方々はほとんどがフリーランスで、自分のサイトやSNSにて仕事を受注しているケースが多いと思いますので、今回の話からは除外させて頂きます。
俳優やモデルは、ほとんどの人たちが、どこかの事務所に所属しています。
そして、皆、オーディションのために、自分の経歴や出演作などが書かれたプロフィールと、自分を知ってもらうための写真(宣材写真と呼ばれるもの)を持っています。
通常、それをもとにして、出演者を選考していきます。
オーディションに呼ぶかどうかの、いわゆる書類選考です。
役を、このプロフィールと写真だけで選ぶことには大変なリスクを伴います。
プロフィールには、当人が出演した作品名は載っていても、どんな役だったのか、その役にどれだけの出番があったのかは分からないケースがほとんど。
そして、特に女性の場合は、大幅な修正が加えられた宣材写真を使っていることが実に多い。
修正が過ぎて、写真と実際の人が、まったく違う人であるかのような場合も少なからずあります。
経験からすると、参加者のうち、10人中、3〜4人くらいはそのような方がいます。
近年では、書類の他に、スマホで自撮りした動画を送らせる制作会社も多いと聞きます。
ウチはそこまでやりませんが、書類だけで役を決めるといった無謀なことはしたことがありませんし、するつもりもありません。
必ずオーディションを行います。
演者を集めるには2つの方法があります。
まずは事務所にお願いするケース。
こちらが出てほしい人が決まっている場合は、この方法で、比較的早く配役が決まります。
もうひとつは「キャスティング屋さん」と呼ばれるキャスティングを専門に行う役割の方々に依頼するケースです。
出演者が多く、様々な事務所に声を掛ける時間のない場合は、キャスティング屋さんにまかせたほうが、効率良く集めることができます。
時と場合によりますが、ウチでは、一役につき、最低十人はオーディションに参加してもらうようにしています。
まず、オーディションを開催する場所で、部屋を2つ押さえます。
モデルさんに待機してもらう部屋と、実際にオーディションを開催する部屋です。
そして、参加者には、オーディションシートと呼ばれるものに書き込みをして頂きます。
名前、所属事務所、スケジュールや、バスト、ウェスト、ヒップ、足のサイズ、場合によってはネックサイズ、股下のサイズ、指のサイズを記入頂くのです。
ここには、公称やサバを読んだ数字ではなく、実寸を記入して頂きます。
出演が決まった場合に、何センチでパンツの丈を切らなければいけないのか、等の衣装の調整等を確認するためです
(写真参考:女優 吉山りささん)
オーディションのシートや宣材は、絶対に外に漏らしていけないものなので、ウチでは厳重に管理しています。
そして、オーディションの進め方として、一人ひとり行う場合と、5人から10人を1グループにして行う場合があります。
ドラマの場合は出演者による掛け合いが見たいので、例えば、父と母、子供、先生といった役の、複数の参加者をまとめて行います。(これは弊社のやり方なので、他の会社がどういうやり方をしているのか、見たことはありませんが・・)
そして審査側にはオーディション参加者のリストとともに、採点表が配られます。
(写真:採点表)
作品の台本は、コンプライアンス上の問題があり、オーディション前に渡すことができませんので、オーディション台本(一部分を抜粋したもの)は待機中にお渡しし、終わったら回収させて頂きます。
台本に目を通してもらい、制作スタッフが参加者に、監督の意向と趣旨を説明します。
現在は情報漏洩に対する意識が大変厳しいので、役の決定前には、メールなどで台本を送ったりはまずしません。
余談になりますが、現在のハリウッドの映画の撮影では、役者には、その日に演じる一部分だけの台本だけを渡します。
ストーリーの全てがわかる完璧な台本を渡すことはありません。
それだけハリウッドにはスパイが暗躍しているということ。
まかり間違って台本が、他の映画会社に流れたら、、、
同じ作品が、先に公開されてしまうでしょう。恐ろしいことです。
こうした理由から、監督がその役の心境、心情、置かれた状況を説明して俳優が演じていき、撮影を行っていくのです。
このような体制ですから、役者は自分がこの先、どうなるか分からずに演じている場合もあるワケです。
かつて一世を風靡した海外ドラマ『24』では、役者が自分を犯人だと分からない状態で撮影したため、それが逆に良い効果を生み出した例だと思います。
さて、ウチで使っている採点表の加点ポイントには、容姿、演技力、適役度、その他での加点ポイントの4つがあり、それぞれ10点ずつの計40ポイントで審査します。
加点ポイントというのは、その人の持っている、その人ならではの強みや魅力に与える得点で、たとえばダンスをしなければならない役の場合なら、ダンス歴が10年あったりすると、それは加点ポイントの対象となります。
ダンサーの役なのに、ダンスをやったことがなかったり、バレリーナの役なのに、バレエの経験がなく、体型もバレリーナの体型ではないケースよりは、実際のダンス、バレエ経験者に高く加点されるのは当たり前です。
その他、例えばシェフの役なら、料理経験者が有利ですし、
実際にシェフの格好をしてきたりといった、役を勝ち取るためのやる気が感じられる場合は、それも加点のポイントにしています。
実際にいらっしゃったのですが、ある俳優さんは、シェフの役という大まかな依頼にも関わらず、ユニフォームの店でシェフの格好を購入し、それを着てやって来たのです。
このように熱意に溢れた方は、こちらの記憶にも残ります。
こうした方の採点表は僕の場合、しっかりと保存するようにしています。
今回の役は適役ではないけれど、俳優として面白いな、頑張っているな、と感じられる人は、何かの役で使いたいからです。
オーディション会場では、センターには監督やプロデューサーが座り、その横に、関係者、クライアントが座ります。
クライアントは一人の時もあれば、5、6人、それ以上の場合もあります。
そして、オーディションには必ず進行役がおり、参加者を会場まで誘導し、お名前を呼んで着席して頂きます。
通常、オーディション時に、スタッフがカメラ撮影もしています。
抜粋された台本を使って、どの場面を演じてもらうかの指示を出すのは助監督の役目。
どの位置に立つかの指示出し、椅子に座るなら椅子の用意をするのも助監督の役割です。
そして、監督やプロデューサーが演技を見たり、参加者に質問をしながら進んでいきます。
オーディション慣れしている人は、総じてきちんと訓練されている方が多い。
入室時、退出時に、誰が中心者かを見定め、その人の目を見て挨拶をするのが基本です。
事務所にもよりますが、しっかりとした事務所の人は挨拶もきちんと教えています。
ビジネスの基本は挨拶。
俳優や演出家といっても、それもビジネスの場であり、芸術の場ではありません。
挨拶がきちんとできる人は、人間なら誰でもいい気持ちになります。
ちなみに、僕の経験ですが、素晴らしい俳優さんは、挨拶も例外なくきっちりされています。
オーディションの場合、それは間違いなく加点ポイントとなるところです。
(写真:オーディションの様子)
部屋に入ってまず行うのは、自己紹介。
なんでもいいので、自分をアピールしてもらいます。
売れている人なら、名前を言って「よろしくお願いします」の一言くらいで終わる場合もありますし、自分のチャームポイントや特技をしっかりと話す人もいます。
残念なのは、まだまだ若手なのに、所属と自分の名前しか言わない人もたくさんいることです。
僕は思うのですが、キャリアを積んでいない人は、ここで、もうちょっと印象に残るようなことを言ったりやってほしいのです。
せっかくの場なのに、自分をアピールできない人がかなりの割合でいらっしゃるのは、本当に残念。
俳優で飯を食っていきたいと思うのなら、ここで勝負しなきゃ、いつするのって思う。
俳優は演技で光ればいい、と思っている方もいるかと思いますが、演技の上手い人は沢山いますし、容姿のいい人も掃いて捨てるほどいます。
単にかわいい、単にイケメンというだけでオーディションを勝ち抜けるほど、この世界は甘くありません。
もし自分に秀でたものがないのであれば、話術を磨いて皆を引き込めるよう努力する。
これも技術のひとつだと思います。
とにかく、皆の記憶に残るようなプレゼンテーションを行ってもらいたい。
これが恥ずかしいと思っているなら、残念ですが、あなたはこの世界に向いていません。
演者は、人に見てもらってナンボの世界ですから。
その後は、オーディション台本をもとに、演じて頂きます。
見る上での最大のポイントは、こちらが求めている人物像になり切れているかどうか。
オーディションは仕事ではないので、演出側は、こうしてくれ、こう演技してくれ、と伝えることはありません。
ここでは、本人が持っている、もともとのポテンシャルを見る場なので、こちらが考える役柄とはイメージが大分違うこともあります。
しかし見ている側もプロ。
僕の場合、「これは補正が効く範囲だな」「この人はこういう持ち味しかないんだな」と瞬時に見極める目は持っているつもりです。
そして、適役度。
どれだけ役柄を咀嚼して演じられるかという能力です。
加点ポイントにはあまりしないのですが、参加者の中には、待ち時間の間に、セリフを全部暗記して演じる方もいらっしゃいます。
こういう場合、「しっかりと訓練されている人なのだな」と良い印象を持つことになります。
そして、オーディション時は、必ずモニターに映し出される映像を見ています。
直に本人を見ているのではありません。
(写真・オーディション時にモニターを確認する酒井監督)
生の舞台ではないので、カメラを通して伝わる雰囲気が非常に大事なのです。
自己紹介の際にはあまり魅力を感じなかった人でも、モニターを通して見ると光り輝く人もいます。
カメラ写りが良い、これは天賦の才といえると思います。
こうした部分も、役を勝ち取る上での重要な部分となります。
俳優志望の20代から30代の人たちを見てきて感じることは、俳優で食べていきたいなら、もっともっと演技の勉強をして頂きたいということです。
昔とは時代も違うのかもしれませんが、自分が俳優をしていた頃は、アルバイトを演出家に禁じられていました。
(ある演出家の先生に弟子入りした僕は、丁稚奉公で、稽古場に寝泊まりして演出を学ぶと共に、俳優をやらされていた)
アルバイト無しですから、オーディションで役を勝ち取らないと、飯が食えないのです。(先生からは、月に5万円だけ頂いていました。365日、1日20時間くらいこき使われて、5万ですよ、5万!)
切羽詰まった状況だったので、一つひとつのオーディションを「勝負の場」と捉えていました。
オーディションを勝ち取る率は相当高い方だったと思いますが、それはハングリー精神で、真剣勝負を挑んでいたからだと思います。
生計の大部分をアルバイトが占め、それなりに食えてしまっている人からは、ハングリーさを感じません。
アルバイトをする暇があったら、もっと演技や表現を学び、感性の切っ先を研ぎ澄ましてほしい。
本ももっと読んでもらいたいし、好きな映画はセリフを丸覚えするくらいのつもりで何度も観てほしい。
好きな俳優からは、立ち姿、セリフの間、表情のとり方など、演技の全てを吸収すべきだと思います。
全身全霊で俳優道を邁進している人と、そうでない人との差は、僕自身の演出家経験からすると、はっきり分かってしまう。
オーディションに落ちがちの人の「負のスパイラル」というものがあります。
本人も合格するとは思っていない。
でもアルバイトで食えてしまっている。
オーディションには来るけど、本気で勝てるとは思っていない。
頭の中だけで勝負するから、演技が当然相手に響かない。
そして、また落ちてしまう。
こうした「負のスパイラル」に陥っている人が、非常に多い。
どこかでこのスパイラルを断ち切らない限りは、厳しい競争の中で、役を勝ち取るのは非常に難しいと言わざるを得ません。
オーディションに通る人は、なにか光るものを必ず持っているものです。
例えば、演技力、笑顔、しなやかな身体、圧倒的な容姿など。
自分がいったい何で光るのか、何で魅力を伝えられるのかを研究して磨いている人は強い。
自分に自信と確信を持っている人は、オーディションも通りやすいし、仕事になっていきます。
つまりは売れていく。
こうした人たちは往々にして日々の努力を怠りません。
たとえナルシストと言われようが、馬鹿と言われようが、自分の魅力を日々向上させています。
演者というのは、一般人たちと同じようなレベルで闘うのではなく、圧倒的な自分の魅力を磨き抜き、勝ち上がれる人だと思っています。
審査する時、クライアントの意見は聞きますが、すべてをクライアントに委ねるということはありません。
基本的にはクライアントといっても、演技などの面では専門家ではないので、演者と演者のバランスとか、全体のトーンに合うのか、合わないのか、ということは分かりませんし、単に外見が優れているというだけでは作品は成り立ちません。
それが分かるのは、やはり監督、プロデューサーであり、作品の根幹に関わる人だけです。
監督は、作品として成立するのか、この役どころを演じきれるのかを見て、プロデューサーは、この作品を皆に見てもらえる作品にできるのか、興行として成功するか、視聴率をあげられるか、という視点で見ています。
配役はやはり、監督とプロデューサーの二人で決めなければいけないものだ、と思います。
クライントが気にするのは、コンプライアンス的なものや、以前にこういった作品に出ていなかったか、とか、こういう雰囲気の人は、うちの社風に合わない、といったこと。
これはクライアントにしかわかりませんので、立ち会っていただく一番の理由でもあります。
集まって頂いたすべての事務所には、お礼と、またよろしくお願いします、といった挨拶の電話やメールは必ず入れさせて頂いています。
キャスティング屋さんに頼んでいる場合は、キャスティング屋さんを通じてお礼をします。
アーツテック流のオーディションとして大事にしているのは、演者はモノではない、ということです。
「はい、次」「はい、次」と参加者を右から左へ、モノのように扱う制作会社もあると聞きます。
弊社は、時間を割いて集まって来てくれた人には、礼儀を持って接しています。
演者が退出する時には、僕も立ち上がって、一人ひとりの目を見て、お辞儀をして、見送っています。
これが人間として最低限の礼儀だと思うからです。
とあるショートドラマのオーディションでの話です。
このCMで主役を演じていただいたのは吉山りささんです。
この方に初めてお会いした時、20代後半だと思っていたのですが、高校生の娘がいるということを聞いて、大変驚いた経験があります。
この吉山りささんにオーディションに参加していただいたのですが、この方をイメージして脚本を書いた、という経緯もあったので、今回僕の中では、吉山さんに演じてもらおうと決めていました。
オーディションに呼んだのは、スポンサーさんに見て頂いて、安心して頂くという意味もありました。
もちろん、出来レースではなく、吉山さん以上の人がいれば、もちろん、その人を選びますが。
ここで難航したのが、高校生の娘役でした。
吉山さんには現在、二十歳を越える娘さんはおろか、孫までいました。
まさに驚異的な「美魔女」です。
僕は、この人と姉妹に見える人を探していたのです。
なかなか、こちらが求めているような人がおらず、もうダメかな、と諦めかけたその時に、他のオーディションに参加していたために遅れてやって来た高校生がいました。
入ってきた時に、「救世主があらわれた!」と思わずにいられない程、魅力的な女の子でした。
演技も光っています。
「助かった!」その時の偽らざる心境です。
こういう事が起こるのが、オーディションの醍醐味でもあります。
演者を誰にするかで、作品のクォリティのほとんどが決まってしまうといっても過言ではありません。
選考は真剣勝負。
オーディションとは、参加者にとっても審査する側にとっても勝負の場なのです。
格闘技の試合ではないので、殺気立つほどではないでしょうが、「絶対にこの役を勝ち取ってやる!」という闘志、情熱が、審査する側のココロを動かします。
本コラムでは、演者の方々には、もしかして失礼に当たる表現もあったかもしれません。
しかし、同じ「表現」の世界に身を投じるものとして、また先輩として、言いたいことを書かせて頂きました。
時代が甘くなったとはいえ、「表現のプロ」の世界は、いまだに厳しい世界。
アマチュアリズムは一切通用しない、厳しい世界です。
演者の皆さまには、今後のオーディションに参考になれば、幸いです。
皆さま、共にクリエイティブを盛り上げていきましょう!
(文:酒井靖之)
日本屈指のクリエイター、酒井靖之監督が
最前線のクリエイティブの話題から、
人生に役立つ情報まで縦横に語り尽くす!
クリエイティブに生きたいすべての人に贈るYouTubeチャンネル「sakaiTV」。
売れる動画・映像制作のパイオニア