“なんちゃってプロデューサー”は実在するか? 〜その生態と行動に迫る〜
2023.08.28 (Mon)
2023.08.28 (Mon)
一昔前のプロデューサーのイメージと言えば、
肩にカーディガンを巻き(俗に言うプロデューサー巻き。石田純一巻きとも言う)、ポロシャツの襟を立て、業界用語を連発するうさん臭い男性。
(イメージ写真1)
本当にそんな人はいるのだろうか、と思う方も大勢いらっしゃると思います。
この「なんちゃってプロデューサー」について、
自らも「なんちゃってプロデューサー」の被害にあったというアーツテック代表・酒井靖之監督にコラムをまとめて頂きました。
あなたが「なんちゃってプロデューサー」の被害に合わないために。
そして業界志望者が「なんちゃってプロデューサー」になってしまわないためにも、ぜひ、ご一読を。
Contents
僕は監督とプロデューサーを兼ねていますが、自分の名刺にはプロデューサーと入れていません。
うさん臭い奴と思われたくないからです。
それほど、プロデューサーにはいい加減な人が多い。
そもそもプロデューサーとは、どんな仕事なのか、そこから話を始めたいと思います。
「監督とプロデューサーってどう違うの?」
山ほど受けてきた質問です。
わかりやすく言えば、監督は作品自体の責任者。
作品のクォリティが良くなるか悪くなるか、その責任は監督にあります。
対してプロデューサーは、結果の全ての責任を負う存在。
映画で言えば、お金集めをするのもプロデューサー。
興行成績を問われるのもプロデューサー。
テレビで言えば、いわゆる“局P”(テレビ局のプロデューサー)が、視聴率の総責任を追います。
このプロデューサーという仕事が、簡単にできる、また簡単になれる職種ではないことは想像できると思います。
しかし、世にプロデューサーを名乗っている人は山程いらっしゃる。
しかし、その中に、まともなプロデューサーはどれほどいるのか、非常に疑問に思うのです。
今回のお題は「なんちゃってプロデューサーは実在するか?」。
結論から言うと、実在します!
しかも、その数は半端ではありません!
「本物のプロデューサー」と「なんちゃってプロデューサー」を分ける定義は何なのか、実例を交えて紹介したいと思います。
広告業界を例に取ってお話しましょう。
広告代理店による広告(TV-CMも含む)は、アート・ディレクター、CM監督、デザイナー、コピーライター、プランナー、フォトグラファーが一つのチームを作って進めていきます。
その中心となるのが、広告の全ての責任を担うクリエイティブ・ディレクター。
このクリエイティブ・ディレクターが、いわゆるプロデューサー的な存在になります。
広告は、ポスターもWebもTV-CMも、すべてのイメージが統一されたクリエイティブでなければなりません。
クリエイティブ・ディレクターとは、広告の方向性やイメージを全スタッフに指し示す羅針盤のような存在。
とともに、広告の効果の責任も追わなければならない。
真のプロデューサー力が問われる立場ですが、当然、誰もができるポジションではありません。
しかし、中にはクリエイティブ・ディレクターとは名ばかりの、“なんちゃってプロデューサー”も存在するからやっかい。
こうした人は、例えば企画会議の際、自分では何も方向性を指し示さず、
「〇〇くんはどう思う?」
やたらとスタッフに質問を繰り返す。
「僕は〇〇風が良いと思います」とスタッフが言えば、
「お、いいね!俺もそう考えていた」と返す。
または、
「もうちょっといいのないかな?」
「こう、ズキューンとくる感じがほしいんだけど」
と、漠然としたことを繰り返すだけ。
こうした人の下で働くスタッフには、この“なんちゃってプロデューサー”が何を言いたいのかを解釈できる能力が求められます。
意見がまとまらなければ、
「ま、キャッチボールしながら固めていこう」
を常套句に、問題を先送りする。
人のふんどしで相撲を取っているだけで、確固たる信念もない。
単なる思いつきだけで、その実何も考えてないお粗末さ。
プロデューサーは、方向性を指し示す能力、皆の意見を集約してまとめ上げる能力が絶対に必要だと、僕は思うのです。
こうした“なんちゃってプロデューサー”を、僕は若き日から多数見てきました。
僕は、企画書や脚本の原案は、プロデューサーが書くべきだと思っています。
元ネタを作ることのできない人が、チームリーダーである事がそもそもおかしいのです。
しかしーー
なんちゃってプロデューサーは、企画書を書きません。
必ず人に書かせます。
人に書いてもらう際も、ページネーションの説明は何もありません。
(僕も相当書かされました。おかげで企画書を書く能力が上がりました!)
こんな人に、脚本の原案なんて到底ムリ。
スタッフに書かせた企画書や脚本を、そのままクライアントに持っていき、
さも自分で考えたかのようにプレゼンする。
そう、なんちゃってプロデューサーは口達者(口八丁)なのです。
しかし、クライアントに「これ、ちょっと違うんだよね」と言われたら
「ですよね! 私もここが気になってました。すぐ直します!」と答える。
そしてスタッフに「あとはよろしくね」と丸投げ。
これが、なんちゃってプロデューサーのやり口です。
僕が一番初めに仕事をしたプロデューサーTさんは、極め付けのなんちゃってプロデューサーでした。
監督と編集中(この当時は助監督でした)、Tさんは僕を呼び出しました。
「お前、今ヒマか?」
「いえ、編集中です」
「編集ったって、監督がやってんだから、お前がいなくても大丈夫だろ?」
「ま、そうですけど・・・」
不機嫌に答える僕に、Tさんはあろうことか、こう言ったのです。
「横浜の黄金町に、いい女がいるんだよ」
「は?」
「立ちんぼだけど、いい女揃いなんだよ」
「はぁ・・・」
「今から行くぞ」
「いえ、ですから編集中です」
断る僕に、強烈な一言。
「お前、仕事と女と、どっちが大切だと思ってんだ!」
彼の言い分は、
「良い映像が撮りたいなら、まず遊ぶことだ。遊んでりゃ、いい画が撮れるようになる。遊びのためなら仕事をほっぽり投げてもそちらを優先すべきだ」。
あまりに自分勝手かつ志の低さに、若き日の僕は心底がっかりしたものです。
このTさん、なかなかの曲者で、僕がCMディレクターとして独立した時に、
「仕事の話がある」と、赤坂のレストランに誘ってきたのです。
Tさんは体格も良く、(上半身はがっしり、下半身は細く、頭髪は寂しい、いわゆるアメリカン体型)その飲むこと食うこと。
鳥の丸焼きやら、ピザ、スパゲッティやら、10品近くをほとんど一人で食べた後、
「〆にオムライスをもらおうか」
プロレスラー顔負けの大食いに、ぶったまげたものです。
しかし、会計の際に「電話があるから」と先に出てしまい、支払いをしない。
その後、クラブ(ホステスのいるクラブです)に連れて行かれ、そこでも支払いをしない。
結局、僕は体よく奢らされただけだったのです。
おまけに最後は「タクシー代を貸してほしい」とまで言って来る始末‥‥。
コントに出てくるような話ですが、本当の話です。
ある時、手違いから、とある有名アーティストとロケ現場がバッティングしてしまった事がありました。
こちらは、クライアント立ち合いの、車のCM撮影。
別日にリスケするなんてありえない話です。
かたやMV撮影で集まったアーティスト達も、売れっ子だけに、この日しか時間が取れないとのこと。
ここは、プロデューサー同士で話し合って収めなければならないのですが、ウチのプロデューサーは、
「誰か、上手く収めてよ。酒井くん、話してきてくれないかな」
と、まるっきりの逃げ腰。
なんで監督の僕が行かなきゃなんないの!?
結局、スタッフの一人が、たまたま相手のプロデューサーと大学の同級生だったため、うまく話し合うことができました。
こういう時に、ドンと構えて、スタッフやクライアントを守れる人こそ、本当のプロデューサーだと思うのです。
また、逆に現場でガチャガチャしているプロデューサーもたまに見受けられます。
これは、その人の準備力がない証拠。
優秀な人は、事前の準備を徹底します。
現場であっちへ行ったりこっちへ行ったりしているのは、たいていダメなプロデューサーです。
また、細かいことに口を出し過ぎるプロデューサーもいます。
「ここは、右から左のパーンが良いんじゃない?」
アホか、と思います。
プロデューサーが監督の領域に口を出す必要はないのです。
かつて、「アーツテックに入りたい」と言ってきた3人の“自称プロデューサー”がいました。
太めの体型に細身のスーツ、怪しいメガネのS君。
いつもシミのついた同じシャツを着ているYくん。
広告代理店出身で、昼間どこで何をしているのかわからないOさん。
いずれも見事な個性を持つ面々です。
S君は、どこからか盗んできた企画書を僕に見せて、
「私はこんなのを企画しています」と言ってきました。
企画書は素晴らしかったのですが、嘘はすぐバレるものです。
しかも彼は、うちの大事なクライアントに、へんてこな壺を売りつけようとした事が発覚し、すぐに辞めて頂きました。
Yくんは、自称“大金持ちの息子”。
「僕を入れてくれれば、父の知り合いがアーツテックに出資する」とかの趣旨で話をもってきました。
しかし、いつも同じシャツを着ているし、いつもお金がない。
挙げ句の果てに、夜、うちの会社の非常階段の踊り場で寝ているところを大家に見つかり、なぜそんなところで寝ているんだと僕が問いただすと、
「実は、泊まれる家がない」との一言。
“大金持ちの息子”は、すべて大嘘だったのです。
そして、Oさん。
お世話になっている人から、
「今、職がないから、しばらく面倒見てやってくれないか」と頼まれ、彼は入ってきました。
「〇〇億のビジネスを今進めている」と大言壮語を繰り返すわりに、クライアント名も明かさない。
具体性が全くない。
朝ちょっと来て、夜戻ってきて少ししたら帰る日々。
昼間はどこで何しているのか全くわかりませんでした。
うちの会社は、中途の人はすべて試用期間を設けているので、皆さっさと辞めて頂きました。
眉唾ものに関わっている暇は、僕にはないからです。
今までに何十人というプロデューサーを見てきましたが、仕事が出来る、ザ・プロデューサーというべき人は、2人だけでした。
この2人に限っては、本当に尊敬すべきプロデューサー。
その一人、Hさんは、まず企画発想能力が段違い。
プレゼンも抜群に上手く、ディレクターになりたての頃は、この人をお手本にしたものです。
もう一人、Yさんは、ザ・チームリーダー。
この人が現場にいるだけで、安心感がぜんぜん違う。
本物のリーダーって、そんな存在なのだと思います。
僕がプロデューサー視点でモノを見る際は、この2人が今でもお手本になっています。
作品をつくる際、僕の頭の中では、半分が「監督脳」、もう半分が「プロデューサー脳」。
2つの脳が意見をぶつけ合っています。
間違いなく良い画が撮れるけれども、予算が掛かるといった場合、プロデューサー脳が働いて、クオリティも落とさない他の方法論を考えようという発想が生まれます。
監督脳一辺倒ではなく、プロデューサー脳を使って、全体を俯瞰して見る。
そうする事で、作品のクォリティも上がる。
それをできるのが自分の強みだと思っています。
とにかくまずは、プロデューサーたるもの、確固たる信念を持ってほしいと思います。
全責任を背負う覚悟無き人、皆に方向性を指し示せない人は、プロデューサーと名乗ってはいけないと思います。
プロデューサーこそ、真のチームリーダーでなければならないからです。
プロデューサーに迷いが生じたり、間違った方向に舵を切れば、スタッフ全員が路頭に迷い、結果、作品が良くない方向へと行ってしまう。
プロデューサーの役割、責任は大きいのです。
これからプロデューサーを目指す人に言いたい事があります。
モノづくりの大海へと漕ぎ出す船長として、覚悟と誇りを持って、皆に安心感を与えながら確固たる進路を示し、目的地へと舵を取る「本物のプロデューサー」になって頂きたい。
心からそう願っています。
(文:酒井 靖之)
日本屈指のクリエイター、酒井靖之監督が
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