動画制作のプロになるには ~「好き」を仕事にするために~
2024.12.28 (Sat)
2024.12.28 (Sat)
近年、SNSやYouTubeの広告動画の需要拡大に伴い、プロの動画クリエイターを目指す人が増加しています。
動画制作が得意で、この技術を生かして収入を得たいと思っている方々も多いようです。
どうすればプロとして活躍できるようになるのか、アマチュアとプロの差とは何か‥‥。
弊社アーツテック代表・酒井靖之監督がその疑問に答えます。
僕が映像のクリエイターを志した頃には、映像といえば、テレビ、映画、ミュージックビデオくらいしかなく、企業の広告映像はテレビCMだけ。
よって、映像制作の道は非常に敷居が高いものでした。
しかし、今は動画全盛時代。
YouTube、SNSが時代を席巻し、いたるところに動画が溢れかえっています。
安価で優秀(専門知識がなくてもなんとかなる)な編集ソフトも次々と登場し、動画制作者も増加。
プロとアマチュアの境界線はますます曖昧になっています。
こうした時代において、自分の「好き」を仕事にして、真のプロフェッショナルになるためにはどうすればいいのか。
その方法論の一端をお伝えできればと思います。
前述したように、今や、中学生、高校生でも簡単にハイレベルな動画を撮影、編集して、SNSやYouTubeに投稿できる世の中です。
しかし、ハイレベルだからといって、それが放送にのせられるレベルの動画かどうかは、話が別です。
テレビにはテレビのルールというものがあります。
テレビは、たまたまそのチャンネルに合わせた不特定多数の人たちに、一瞬のうちに興味を喚起させるものです。
そこには、チャンネルを変えられないための、あの手この手のテクニックが存在します。
また動画を放送にのせるためには、いろいろなルールがあります。
色、明るさ、音、それぞれに、実に細かい決まり事があるのです。
それはかなり専門的な内容になります。
YouTubeの編集だけをやっている人には、理解するのは少し難しい気がします。
また、放送できるクオリティを担保するためには、放送の原理、コンプライアンスに配慮する等、事細かに理解していなければならないことが無数にあります。
既成の音楽を無断使用してはいけないといった著作権の違反などについては、誰でもお分かりかと思いますが、放送にはさらに複雑なルールがあるのです。
例えば、そのひとつに薬事法があります。
これは医薬品、医療器具、化粧品などの製造・販売に関わる法律です。
この法律では、広告での表現についても規制しています。
例えば化粧品のCMを流すときには言ってはいけないことが山ほどあります。
「しわが消える」「若返る」など、エビデンス(医学的根拠)のないものは全てNGになり、放送できません。
コンプライアンス意識の薄かった昭和の時代には、好き勝手に作れたのかもしれませんが、そうはいかないのが令和の時代。
放送上のルールを熟知した上で動画を作れる人こそ、プロフェッショナルと呼べるのだと思います。
芸術作品でない限り、自分の好きなものを作っていくだけでは、プロで食べていくには難しいと思います。
自分の感性のみで作られる作品は、映画でもテレビでも企業広告でも存在しません。
作品作りにおいては、ありとあらゆる人たちの希望や注文、修正に対応できることが求められます。
「ぼくの感性では、こうなので、こうしたいんです」
これではプロフェッショナルとしては通用しないと断言できます。
動画制作という分野で稼いでいきたいのなら、他人のオーダーをしっかりと受け入れた上で、それを自分らしく料理できる演出術が必要だと思います。
例えば、映画作りにおいても、いろんな人たちが口を出してきます。
プロデューサーや制作委員会などが
「こんな、バッドエンドのストーリーじゃだめだ」
「これでは客を呼べないよ」と。
採算度外視の芸術作品を作りたいなら話は別です。
しかし、お金を稼ぐプロになりたいのであれば、様々な人たちのいろんな声に対応しつつ、自分なりに作り上げられる術がないと、プロとしては通用しないと思うのです。
今は、どこにも勤めることなく、いきなりフリーランスになる人が増えていると聞きます。
最初からフリーランスとしてやっていこうとするよりも、まずは制作会社に入るなどして、最低でも3年間は、先輩ディレクターから仕事術を学んでほしいと思います。
優秀なディレクターは、まず経験値が違います。
「こういうことをやったらクライアントにはこう受け取られる」
「こういう表現は、クライアントから嫌われる」
というようなことをよく分かっています。
そして、テレビCMのように日本全国の人に見てもらうものを作るなら、まず、ビジネスの世界を知ってください。
ビジネスと一言に言っても、社会にはさまざまな業界があります。
その業界にはその業界なりの特色や課題といったものもあります。
それを理解しないで、表面的な企画案を出しても、学生の広告研究会にも劣る結果となってしまうと思うのです。
単に、仕事のやり方を学ぶだけではなく、社会はどのように成り立っているのか、どんな表現がどんな効果を生むのかという知識を蓄積していくことが大切だと思います。
広告動画という世界でやっていきたいと思うなら、単に動画の表現手法を見るだけではなく、ポスターなどの広告(よく知ってる企業、商品の)をよく見てください。
何故にこのコピーが書かれているのか、意図をちゃんと読めることが大事です。
例えば、電車の広告。
大きな会社、売れ筋の商品の広告は、優秀なクリエイターが携わってることが多い。
広告はどれも、写真やイラストなどのビジュアル、そしてキャッチコピー、ボディコピーで成り立っています。
クライアントがどういうオーダーを出し、そしてクリエイター達は何を表現したくてその写真を撮り、イラストを描き、コピーを書いたのか、自分で解析してみる癖をつけてください。
クライアントは、必ず制作者に何らかのオーダーをしています。
あるホテルの広告があるとします。
夏に沖縄は当たり前ですが、あえて冬に来てもらえるようにしてほしい、という注文だったとします。
あなただったら、どういうコピーを書きますか?
こうした訓練をしていると、アイデアを生み出すコツ、客のオーダーに応えるコツがだんだんと掴めてくるのだと思います。
企業との打ち合わせには、その業界の難しい用語(いわゆる業界用語)が頻出します。
その三分の一も理解できないようでは、お客さんの要望通りのものは作れません。
僕は三十年以上のキャリアの中で、様々なクライアント様から話を聞き、分からないことは後でしっかりと調べ、勉強していくうちに多くの知識を蓄積することができました。
プロでやっていく上では表現のテクニックが必要、というのはもっともですが、それは当たり前の大前提。
社会経験の中で培ってきた能力こそが、広告動画を作る中で一番必要な能力です。
そうした知識の中から、発想が導き出されるのだと思います。
企業の動画担当者は、宣伝部、広報部のエース級の人たちです。
僕たちは、その人たちの上へ行かなければいけません。
相手が納得できる打ち合わせ、提案ができなければ、信頼もされません。
一流の映像人は一流のビジネスマンであるべきなのです。
カメラが安価で手に入るようになり、編集ソフトも、安価かつ簡単に操作ができる時代。
簡単にハイレベルな動画が作れるようになっても、やはり、プロとアマチュアの間には高い壁があります。
しかしそれは、決して乗り越えられない壁ではありません。
「好きだ」という最初の気持ちを忘れず、誠実に努力し続けていれば、必ず結果はついてきます。
僕も、ある面は独学で進んできました。
カメラマンや編集さんに頭を下げて、教えを乞うたことも数知れず(よく一杯おごらせていただきました)。
わからないことをわからないままにしておくのではなく、絶対わかろうと思って努力してきました。
皆様もぜひ、単にプロになれればいい、ということに満足せず、多くの人のココロを動かせる、一流のクリエイターを目指してください。
そして、バンバン稼いでください。
この業界で成功し、良い暮らし、カッコいい生き方をしている人が増えれば、力ある若い人材も増えていくと思うから。
動画制作の明るい未来を目指して、共に頑張りましょう。
(文 酒井靖之)