動画のプロが実践する出張術
2025.04.01 (Tue)
2025.04.01 (Tue)
日々、日本全国津々浦々から世界各国までを飛び回っている弊社代表・酒井靖之監督に、その「出張術」を、ロケハンから美味しい店の探し方に至るまで、縦横無尽にご紹介して頂きました。
映像・動画の制作会社の仕事において、大きな比重を占めるのが撮影です。
私どもは東京の会社ですが、東京だけで撮影が成立するということは、まずありません。
先方が名古屋在住であったり、福岡在住であったりする場合は、そちらへ出張して撮影しなければなりません。
企業プロモーションの撮影も、札幌に営業所があるとすれば、当然、そちらへ出向きます。
僕は、30年以上この業界に携わってきて、日本において、仕事で訪れていない都道府県はありません。
北は北海道、南は沖縄まで、47都道府県、すべて網羅しています。
これはひとえに、役得と言うのでしょう。
今回は、そんな僕の「出張術」についてご紹介させて頂きます。
僕は出張用のバッグ、アタッシュケースを5種類ほど用意しています。
1泊2日用、2泊以上用、一週間以上用、10日以上用、そして、それ以上のための、計5種類のバッグを使っています。
そして僕は、数十年のキャリアの中で、どんな旅になろうとも、30分以内にパッキングできる能力を培いました。
忘れ物をすることも、まずありません。
数年前、ニューヨークに1ヶ月、ブラジルにも1ヶ月、出張しましたが、「あれが無い」「あれを持ってくれば良かった」といったことは全くありませんでした。
僕は、着替えや下着の他に、トイレタリーのセットはこまめに補充しています。
ホテルによってはチープなシャンプー、リンス、ボディソープを使っている場合がありますが、それでは気持ち良く一日をスタート出来ないからです。
自分の使う分のシャンプー等は、小分けにしてミニボトルに詰めています。
髭剃りに関しても、僕は肌が弱いので、電気シェーバーやホテルの使い捨て剃刀は使えません。
家で使っているものと全く同じものを出張セットに入れています。
飛行機での移動の場合は、長時間のフライトに備えて、腰や首を痛めないようにクッションやネックピローも必需品です。
時差ぼけ対策に睡眠導入剤も持っていきます。
海外では日本人の体質に合った薬を入手するのは難しいので、頭痛薬、胃腸薬などの最低限の薬は常備しています。
これらは、一つのミニバッグに入っており、これをポンと入れるだけで終了です。
そして、冬季は天候が読めない場合があるので、ネックウォーマーや手袋、機能性の高い下着などを使います。
体を守ることはプロとして当然ですので、必ず揃えています。
僕が海外出張の場合、必ず用意しておくのは、アウトドアメーカーの薄手のジャケット。
ノースフェイスなら「ストライクジャケット」。
丸めたら手のこぶしくらいになります。
ご経験された方も多いかと思いますが、海外の飛行機会社は日本人にはありえないくらい寒い。
夏でもダウンが必要なくらい寒くて、ニューヨークまで一睡もできなかった経験もありました。
そして、僕は本をよく読む人間なので、最低三冊の文庫本を持って行きます。
重量的に厳しい場合は電子書籍リーダーを使って、どこでも本を読めるようにしています。
出張の、重要な目的のひとつに、ロケハンと呼ばれる、撮影場所の下見があります。
取材対象者にいきなりカメラを向けるのではなく、まずは、事前にご自宅に出向いて、まず、こちらの人となりを見て頂いて、人間関係の距離を近づけていくことから始めます。
その際にも、脳の片隅では、「どこでどう撮ったら良い画になるか」とか、「この窓の光は、何時からがベストの光になるのか」などを計算しています。
また、企業のオフィスを撮影しなければならない場合、チェックしておく項目は多岐にわたります。
インタビューがある場合、希望の場所は、何時に撮れば社内的にも許されるのかを確認します。
例えば、受付を撮影する場合、多忙な時間に撮影していたら、来客もあるので邪魔になってしまうからです。
そしてライトの位置、カメラの位置まで、事前に決定しておいた上で、本番に臨むのです。
「聞いてないよ」「この場所ではダメだよ」と言われることのないように、事前の根回しをしっかりした上で、なるべくスムーズに撮影を進ませていけるのがプロフェッショナルだと思っています。
また我々は、限られた時間の中で、良いものを撮らなければなりません。
実景撮影においても、良い景色を探す場合は、観光協会やフィルムコミッションを使って聞きまくります。
こっちがいい、あっちがいい、と当日に探している時間はないのです。
まさに準備こそ、作品作りの99%を決めるのです。
そのために必要なのが、ロケハンです。
出張での最大の楽しみは、地元の名物料理を食べられることです。
僕は47都道府県のほとんどの名物料理は食べ尽くしてきたとの自負があります。
当然、各地それぞれ素晴らしい郷土料理があるので、どこが一番おいしかったとは一概には言えませんが、ここでは、旅慣れた人間として、地元の人しか通わない、地元の人が愛する店の見つけ方をご紹介したいと思います。
タクシーを拾う際、なるべくベテランの運転手、できれば個人タクシーを見つけて乗ります。
彼らは運転技術が高いだけでなく、地元の食に精通している人が非常に多い。
せっかくその土地に行くのだから、観光客が行く店ではなく、地元の人が惚れ込んでいる店に行きたいものです。
だからこそ、地元の人のおすすめの店を聞いて、連れて行ってもらうのです。
この方法は、まず外れたことがありません。
しかし、ちょっとびっくりしたことが長崎で二度ほどありました。
運転手さんに、「一番美味しいと思う長崎ちゃんぽんの店に連れて行ってください」とお願いしたら、連れて行かれた場所は、2回ともリンガーハット。
びっくりしましたが、運転手さん曰く「ここが一番美味しいよ」と。
せっかく本場に来たのだから、地元の店で食べたかったんだけどなあ。
せつなくも楽しい思い出です。
出張で失敗したことはあまりないのですが、自分の癖として、ギリギリまで良い画を撮りたいので、飛行機の搭乗に遅れそうになりがちということがあります。
ある時は、レンタカーを空港の駐車場に乗り捨てて、飛行機に飛び乗ったことがありました。
(あとでレンタカー店に丁重にお詫びしました‥‥)
この手のことは2回ほど経験があります。
宿泊場所に、特に強いこだわりがあるわけではありませんが、朝食に手を抜いているホテルは取らないようにと、社員にも言っています。
ひどいホテルになると、たいして安い値段ではないのに、焼いていない食パン一枚に、ゆでたまご一個というホテルもあります。
同じお金を払うなら、スタッフたちが撮影前に幸せな気分になれるような場所を選ぶようにと、若い社員に言っています。
限られた予算で、朝食にこだわった宿泊先を探し当てるのも、チームリーダーになるための訓練です。
「写真ではおいしそうに見えたんですけど‥‥」という場合も当然あります。
写真とリアルの差は誰しもが経験することです。
しかし、そういったことを積み重ねながら、審美眼を養っていくのも、大切な修行だと思っています。
今回は、僕の出張術の一端をご紹介させて頂きました。
「術」といっても、全国を駆け巡る仕事をしている中で会得した、自分なりのちっぽけな方法論です。
僕以上に出張を極めたプロフェッショナルの方もいらっしゃると思います。
もし良い情報がありましたら、ぜひ教えてください。
これからも勉強を重ねつつ、僕も、さらに良い旅を重ねていきたいと思っています。