僕の撮影術 「人物」篇 ~ 最高の笑顔のつくり方 ~
2025.08.01 (Fri)
2025.08.01 (Fri)

現在、一般の方々でも、自撮りや料理を撮影する技術は上がっていて、プロと比べて遜色のないレベルになっていると感心します。
しかし、自分以外の人物を撮る、ということになると、まだまだプロとアマチュアの差は歴然とあるように思います。
今回のコラムは、カメラマンとしても活躍する弊社代表・酒井靖之監督よる、人物写真の撮り方についてです。
写真が好きで、もっと上達したい!と思ってらっしゃる方は必読です。
時々、写真よりもカメラが好きというような方々をお見受けします。
撮られている写真よりも、カメラのスペックや画素数、キャノンやニコン、富士フィルムの〇〇が良い悪いといった議論がされることがしばしば。
人それぞれ考え方があるので押し付けるつもりはありませんが、僕は画素数とか「キレがいい」等を、良い写真の要素だとは思っていません。
僕の思う良い写真とは、心が動かされる写真です。
スマホの写真だって、心動かされる写真はあります。
漫画家さんには、それぞれの漫画家さんにとって、自分に合う画材があり、小説家なら、自分にあったペンや原稿用紙があると思います。
漫画家や、小説家は、自分の求める「表現」を描くのが仕事。
画材やペンはそのための道具なのだと思います。
カメラにしても、あくまでも写真を撮るための道具。
自分が求める表現を叶えてくれる道具を追い求めていくと、自分に合うカメラが見つかるんだと思います。
例えば、手塚治虫先生が使うGペン。(古い話ですみません)
手塚先生に憧れた若きレジェンド漫画家たち(藤子不二雄先生、石ノ森章太郎先生など)は、みな最初はGペンを使っていたそうです。
しかし、それがみなに合うとは限りません。
プロのカメラマンには、それぞれ自分の撮りやすいカメラがあると思います。
写真を撮り続けていくと、自分の撮りたい写真が見えてきます。
自分らしい写真に仕上がるのは、どんなカメラなのか。
それが、自分に合ったカメラを選ぶ大前提だと思います。
写真はあくまでも感性の発露なので、自分が「良いな」と思ったものから撮って行くことがいいと思います。
皆さんは、「これは映える」という景色に、さっとスマホを向けていると思います。
最初はそれでいいと思うのです。
でも、問題は、自己満足の写真から、より一歩上の写真を撮りたい場合です。
ただ単に、気分の赴くままに写真を撮っているだけなら、技術は向上しません。
まずは「今日はこういう写真を撮ろう」と決めることが上手になるコツだと思います。
しかし、こういう写真を撮りたいけれど、実際にはそうならなかったということも当然あると思います。
そういった場合には、なぜそうならなかったのかを、徹底的に解析することが必要です。
理由はいろいろあると思います。
画角が広すぎた、逆光になってしまっていた、明るく撮りたいのに、暗くなってしまっていた、等々。
大事なことは、失敗した時に、自分のイメージと実際の写真との差をちゃんと解析して、次はこう撮ろう、と、復習と共に予習をすることです。
このようなことを1年、2年と繰り返していくうちに、写真は必ず上手くなります。
上達しない人は、そこまでやり続けられずに飽きてしまった人か、そもそも自己満足で終わっている人です。
解析して、反省して、次につなげる。
こうしたサイクルをちゃんとこなしていけるかが、写真の上達のための最大の要因だと思います。
僕は、自分の写真を見る人に、元気になってもらいたい、ハッピーな気持ちになってもらいたい、と思って撮るようにしています。
必然的に、風景カットよりも、人物の笑顔の写真が多くなります。
「この笑顔はどうやって撮ったんですか? この方々はモデルさんなのですか? どういうコミュニケーションを取ったのですか?」とプロのカメラマンから、よく聞かれます。
僕は、それに答えるほど大した技術は持ち合わせてはいません。
写真展「Happy China」はすべて中国国内で撮影した写真で構成したものでした。
その9割が人物写真。
中国は14億人もいる国なので、人を群衆として捉える写真が多くなりがちです。
そこで僕は群衆ではなく、一人ひとりの人間に焦点をあてた写真展を開こうというのが、写真展「Happy China」の趣旨でした。
一人ひとり、丁寧に、笑顔を撮っていったつもりです。


僕は中国語を話せるわけではありません。
中国語を喋れる人を帯同させて、まずは自己紹介をして、「あなたの写真を撮りたいのですが」というコミュニケーションから入りました。
当然、「どうして?」「君はだれ?」という反応です。
中国では日本人だというと、総じて良い反応はありません。
僕は相手に
「どういったお仕事をされているのですか?」
「ここに何年住んでいらっしゃるんですか?」
という会話から始めて、自分が日本でやっていることだったり、何度も中国を訪れていること、中国で展示会をやったりしたこともあるんですよ、といったことを話していきます。
そのうち、次第に見えない心の壁が無くなっていくのを感じました。



人とのコミュニケーションでは、テクニックなどではなくて、自分をさらけ出して、相手の懐に入っていくこと、誠実に相手に接することが大事だと思っています。
多少の文化や言葉の違いがあっても、この人間は良い人間だ、ということは伝わるものです。
長い時は30分くらい話すこともありました。
中には、日本のことがあまり好きではない、という本音を聞くこともあります。
しかし、自分を知ってもらおうと誠実に会話を続けていくうちに、相手も打ち解けた調子で話をしてくれるようになるのです。
そして最後に、「写真を撮っていいですか?」と言います。
そうすると、単に「カメラの前で笑ってください」という表情とは明らかに違う笑顔が撮れるのです。

笑顔を撮るだけなら、プロのモデルさんなら簡単です。
「はい、笑って」と言えば、すぐに満面の笑みを返してくれますから。
ところが、俳優でもモデルでもない人で、満面の笑みを出せる人は、ほとんどいません。
ましてや、カメラマンは見知らぬ人ですから。
お互いに心を開いた時に出してくれた笑顔こそ、写真になった時、見る人が幸せになる笑顔なのだと思っています。

僕がもともと写真を始めたのは、二十歳を越えて映像の世界に飛び込んでからです。
映画やドラマの世界では、カメラマンや監督とのコミュニケーションの中で、レンズは何ミリ、F値はどれくらい、ローキーやハイキーといった用語が飛び交います。
当時、助監督だった僕にはまったくその意味がわかりませんでした。
どうやって学べばいいかを考えて、なけなしのお金をはたいてキャノンのカメラを買いました。
当時はフィルムカメラだったので、現像してから、撮影の失敗に気付きます。
「あの時に絞りを絞り過ぎていたんだな」とか「シャッタースピードが遅すぎたんだな」等と研究を重ねていきました。
ある時、自分が撮った写真を、プロのカメラマンたちに見せる機会がありました。
「これ、本当に君が撮ったの!?」「お前、めちゃめちゃセンスいいじゃないか!」と褒められた記憶があります。
それまで自分が上手いとか下手だとか考えたこともなかったのですが、それからは写真を本格的に撮るようになりました。
映像の撮影時に、カメラを持ち歩いたり、合間にスナップを撮ったりすることは、僕の当たり前の日常になったのです。
自分がさらに上手くなったきっかけは、好きな写真家ができたことだと思います。
アンリ・カルティエ=ブレッソンやロベルト・ドアノー、木村伊兵衛さん。
彼らのパリの写真に感動し、決して安くはなかった写真集を買い求めました。
街角のスナップにもかかわらず、モデルさんを使っているんじゃないかと思ってしまうくらい、笑顔だったり、構図だったり、信じがたいほど素晴らしい瞬間を、巨匠たちは切り取っています。
いったいどうやったら、こんなスナップが撮れるのだろう、というところから僕の写真の本格的な旅が始まった気がします。
自分とは何が違うんだろう。
常にそう考えながら写真を撮るようになりました。
彼らに少し近づいたかもしれないと思ったり、まだまだ遠いなと思ったりしながら撮っていくうちに、自分の中で「こういう写真を撮りたい」ということが明確になっていきました。
自分が狙っているのは、ハッピーな瞬間であり、見る人がハッピーになれる写真なんだな、と写真を撮り始めて十年後くらいに気付くようになりました。
自分はそんな写真を撮り続けていこうと決めたわけです。
ただし、自分はあくまでも映像の人間なので、写真を商売にしようという考えは今に至るまでありません。
海外に行った際、遠方にロケで行った際に写真を撮るとき、一番大事にしているのは瑞々しい気持ちです。
僕は、いつも当たり前のように歩いている道でカメラを向ける感性は持ち合わせていないので、なるべく知らない場所へ行って、「こんな場所があるんだ!」という驚きと発見からシャッターを切ることが多い。
先だって中国へ行った際にも、胡同(フートン)で民族衣装を着た女性をスナップで撮ってきました。
「ああ、こんな世界があるのか」という感動は、いい写真を撮ろうと思う原動力になります。
必然的に、海外での写真が多くなります。
そして、撮りためた数々が、僕の写真展「ENERGY」となりました。
キャッチコピーは「あなたのENERGYを再起動 見るだけで元気になる 勇気が湧く」。
スナップというものは、通常盗み撮りが多いものですが、僕の写真展では盗み撮りは一枚もありません。
すべて一枚一枚、コミュニケーションを取って撮らせて頂いています。








老若男女、肌の色もまちまちな素敵な笑顔の数々は、見る人をハッピーにできると信じています。
この写真展は、方々から過分なご評価をいただきました。
結論。
人物写真のコツは、テクニックではなく、誠実にコミュニケーションを取ること。
これが僕なりの、唯一の方法論です。
正直に言うと、カメラはなんでもいいと僕は思っています。
写真展では、数枚、スマホの写真も出しました。

ipone初期モデルで撮った写真。
目の前の現象は常に変化しています。
ある人が5秒間くらい笑っていたとしても、最高の笑顔の瞬間というのは、そのうちの0.5秒くらいです。
それが生きている画です。
その生きている間にシャッターを切れるか、どうか。
風景でも、カメラを構えるまでの時間がもったいない瞬間があります。
そんな時に助かるのが、スマホの存在。
僕は目の前で起きることはすべて一期一会だと思っているので、その瞬間に、絞りをああして、シャッタースピードをこうして、などと時間を掛けなくても、パッと撮れるのが、僕にとって最高のカメラだと思っています。
だから、好きなカメラはとことん使い倒して、いつ何時でも、大切な瞬間を切り取れるようにしておかなければと思っています。
これがプロとアマチュアを分ける大きな差なのではないかと思っています。
何事も、一朝一夕に上達することはないと思います。
カメラも映像の演出もそうです。
しかし、大事なことはやり続けること。
先だって、メジャーリーグの殿堂入りを果たしたイチローさんがスピーチで、殿堂入りした理由は、19年間のメジャー生活の中、最後のユニフォームを脱ぐまで、小さなことを積み重ねた結果でしかないと仰っていました。
僕ももう一度、その言葉を肝に銘じて、さらに良い写真、人をハッピーにできる、勇気を与えられる写真を撮れるようになりたいと思っています。
ぜひ、みなさんもぜひ自分らしい写真を撮って、「カメラ」ではなく「写真」を語り合いましょう。
(筆者:酒井靖之)