【現場の話】第二回 ドラマ制作 プリプロダクションとは
2023.10.06 (Fri)
2023.10.06 (Fri)
現場の話シリーズ第二回のテーマは、プリプロダクション。
プリプロダクションとは、映像制作の現場における前準備のこと。
撮影までに行われる全てのことをプリプロダクションと考えてもらったらわかりやすいかもしれません。
業界ではプリプロとも略されますね。
本日は、このプリプロダクションについて解説していきます。
Contents
撮影前段階にプリプロダクションと総称があるように、撮影、撮影後にも総称があります。
映像制作の大まかな流れは、
プリプロダクション
▼
プロダクション
▼
ポストプロダクション
となっています。
プリプロダクションが、撮影前の準備
プロダクションが、撮影
ポストプロダクションが、撮影後の編集、MAなど
ですね。
それぞれの詳細な中身については、第一回で、制作フローについて紹介していますので、そちらをご覧ください。
▶︎▶︎▶︎https://www.artstech.net/column/5629
私は、プリプロダクションの中でも、フェーズが2つに分けられると感じます。
というのも、シナリオ作成の部分とシナリオ作成後の撮影準備の部分の2つです。
つまりプリプロダクションの中に、さらにプリプロダクションがある。
プリプリプロダクションが存在するんです。
活きの良い魚みたいな表現になってしまいましたが(笑)
まず、このプリプリプロダクションと命名したシナリオ作成の部分についてお話ししていきましょう。
よく、テレビドラマを見ていると、監督よりも脚本家の名前の方をよく目にする方も多いのではないでしょうか。
テレビドラマの世界では、脚本家の力で作品の良し悪しが決まるといっても過言ではないほど、脚本に注目が集まります。
脚本が、作品の軸となる部分であるということです。
しかし、この脚本。
誰もが簡単に書けるものではなく、また人のココロを惹きつける脚本を書くことができる人は、数えられるほどしかいないでしょう。
私は一度、夏休みの課題でシナリオを書く機会をいただきました。
脚本の勉強もまともにしたことがない人間がシナリオを書くと、それはもはやシナリオではありませんでした。
話の軸もなく、感想を聞くと「よくわからない」。この一言に尽きる。
当たり前に見ていると、なんだか書ける気になっている人がいるのだとしたらそれはとんだ勘違いであることを体現した私が、脚本を書くという点において語れることはこれくらいです!(笑)
もっと、深い話を知りたいという方、脚本家でもある酒井監督が脚本術を大公開していますので、ぜひご覧ください。
「誰も知らない、誰も教えてくれない演出術」Vol.2 -脚本の実際に迫る-
▶︎▶︎▶︎ https://www.artstech.net/column/2526
シナリオがあって、初めて撮影に向けた準備というところに着手することができます。
細かい準備等ありますが、何よりもまずはチームを結成すること。
ここからスタートです。
酒井監督が演出する現場には、酒井組として、一流の各技術スタッフが集まります。
ドラマ撮影現場のスタッフは、以下のような役職が名を連ねます。
監督(演出)
プロデューサー
脚本
カメラマン
ライトマン
美術
音声
ヘアメイク
衣装
制作
出演者
エキストラ
※フードスタイリスト
※ドローン
※特機
※は、撮影内容によって異なります。
さらに、それぞれの役職にアシスタントがつき、スタッフだけでも総勢20名以上が集まり、出演者・エキストラさん等を含めるとかなりの大所帯に。
この大きなチームの中心が監督であり、皆監督のイメージする画を実現するために、それぞれの役目を全うしていきます。
そして、監督は、それぞれの方とそれぞれの担当のことについて、綿密に打ち合わせをしていくのです。
例えば、カメラマンとは、カット割の話。ライトマンとは、照明のイメージの話。美術とは、美術道具の話…。
「技術の打ち合わせ=技打ち」 「美術の打ち合わせ=美打ち」 と呼ばれるものですね。
監督の中にあるイメージがチームの皆に共有されていくということが、このプリプロダクションの大きなポイントです。
そして、聞いたイメージを実現するために、それぞれの準備が進んでいく———。
そして、このプリプロで決めなければいけない大事なことが2つあります。
それは、出演者とロケ地。
映像化した際の視覚的情報で一番大きな影響を与えるものであり、またこれらが決まらないとスタッフとの打ち合わせにも進めないといった大切な点でもあります。
では、まず出演者の決定についてお話ししてきましょう。
キャスティングとは、運命の出会いのようなものだなと私は、感じます。
限られた時間の中で、役のイメージあった輝く人を見つけ出す。
そんなオーディションで、私には、印象に残っているエピソードが2つあります。
1つ目は、主役の女子高校生役の子のオーディション。
監督もクライアントさんもなかなかピンとくる方と巡り会えておらず、日も暮れ出した。
これは、もう再オーディションするしかないのか、と皆が思っていた頃、最後の1人として学校帰りに駆け込んできた一人の女子高校生がいました。
会場に入ってきた瞬間のオーラ。空気。皆が「そう!この子!この子を待っていた」と言わんばかりに役のイメージにピッタリあったその女子高校生が主役の座を勝ち取ったオーディション。
私は、この瞬間を作品と彼女の運命の出会いのように感じました。
2つ目は、主人公の女性の成長を描いた作品のオーディション。
この作品は、主役の女性が肝となるため、主役選考では、たくさんの方にオーディションにご参加いただきました。
2日間に分け、役30名ほどのオーディションを行いましたが、初日の第一回、1番目に入室された方がこの作品の主役に選出されました。
確かに、この子しかいなかった。という印象ですが、私が印象に残っているのは、オーディション順です。
採点する側も人間。もちろん公平な目で見ていますが、一番最初に見られる人は、その後の採点の基準となりがちです。
スポーツのアイススケートなどが良い例かと思います。
しかしながら、彼女は、その後に審査した他全ての人より輝いており、主役の座を勝ち取ったのです。
もちろん彼女の実力・適役度の高さが結果として現れたに過ぎないのかも知れません。
しかし、オーディション順に左右されることのない圧倒的な存在感を見せつけたという点において、私は、彼女がとても印象に残っています。
▶︎▶︎▶︎https://www.artstech.net/column/5633
キャスティングと同時進行で行われるのが、ロケ地の選定。
いわゆるロケハンというものを繰り返し、監督イメージにあったロケ地を見つけ出す。
シーンの数だけロケ地は必要となってきます。
今回のドラマは、CMドラマのため、尺も2分程度と短編作品でした。
しかし、その作品を作り上げるにあたって撮影した場所は、全部で、10ヶ所以上。
TVドラマなど、1時間の作品を作り上げるには、相当数のロケ地が必要となってくることは明白です。
この数多くのロケ地全て、シナリオイメージとマッチした最高のポイントを見つけ出す。
制作部が走り回り、ロケ地を探し、監督に提案します。
その中から、監督のイメージと近いロケ地を監督も実際に足を運んでいただき、再度ロケハン。
そこで、ロケ地が決定します。
もし、違うとなれば、探し直しですが…。
その繰り返しの末、ロケ地が決定した段階で、オールスタッフロケハンを行います。
これは、前述した酒井組のスタッフ全員でロケ地を下見することを指します。
ここで、より具体的な撮影に向けたロケハンを行うこととなります。
ざっくりとした流れは、こういった形ですが、このロケハンについて詳しく知りたい方は、ぜひこちらのコラムも読んでください!
▶︎▶︎▶︎https://www.artstech.net/column/5201
ドラマの現場には、スタイリストさんがいません。
なぜかと言うと、衣装部さんがいるからです。
衣装部とスタイリストって同じじゃないの?と思われる方もいるかも知れません。
もちろんどちらもされている方がいるのは事実です。
しかし、ドラマの現場において、衣装に携わる人は、皆スタイリストではなく衣装部です。
スタイリストは、モデルに似合う服を決める、商品である服やその他の売りとなるものを引き立たせる衣類を抜群のセンスで決めていく人。
衣装部は、あくまでも各役の各シーンに似合う衣装を考え、決めていく人。
時には、おしゃれではない衣装も用意します。それは、そういったイメージの役であるからです。
これが、スタイリストと衣装部の違い。
では、その衣装部さんとドラマ制作現場の関わりについて、ご説明していきます。
まず、衣装部さんと監督含む演出部で打ち合わせし、各シーンの衣装のイメージを共有していきます。
そのイメージ共有をもとに、衣装部さんは、たくさんの衣装を用意。
しかし、そのたくさんの衣装の中でも、選ばれるのは1着。
その1着を選ぶために、衣装合わせというものを行います。
数多くの衣装がかかったラックが並び行われる衣装合わせは、一役数時間かかることもありました。
もちろん衣装数が多いこと、熟考していることも理由としてありますが、靴下ひとつまで、細かく決めることも理由として挙げられるのではないでしょうか。
衣装も、演出のひとつ。セリフや表情だけでは伝えられない要素を衣装が作り出す役の雰囲気で伝えるものです。
それほどまでに、衣装というものは、映像を左右する一つの要因でもあり、プリプロダクションにおいて重要なことのひとつだと私は思います。
(写真:衣装香盤と呼ばれる衣装のアイテムひとつひとつを撮影順にリスト化したもの)
プリプロダクション最後の要素として、本読みをご説明します。
台本をもとに、監督からイメージ共有。
俳優さんたちは、本読みで得たことを本番までに繰り返し練習されてきます。
普通、このセリフもうちょっと、こうやって言ってといったように、セリフの言い方が伝えられると思われていますが、実はそうではありません。
酒井監督は、その時のその役の立場、心情、そういったものを丁寧に説明されます。
その説明を受け、役に寄り添い、また成りきった役者さんから出たセリフこそ生きたセリフであると考えているからです。
「あなた今ね、大失恋中ね。すごいクズ男に引っかかっちゃって」
といった形でしょうか。
うんうん。と、役に思わず共感してしまう説明をされるのが、酒井監督流だと感じます。
本読みでは、こういったやリとりが繰り返されていきます。
オーディションや、ロケハン、衣装合わせに本読み。
プリプロダクションにおける大きな項目を説明してきました。
しかし、その裏には、撮影に向けた細かな準備が必要になってきます。
私は、ドラマの現場になると、漏れがないよう細かなチェックリストを作っています。
そこに、タイミングごとで必要な項目、期日、担当を書き込む。
そして、自分が担当であればする市、お願いしたことに関しては、期日までにできているか確認して、チェック。
そうして、撮影が100%の状態で行えるよう、準備を徹底していきます。
下は、実際のチェックリストの写真です。
これだけでもほんの一部。
全体をスムーズに進行していく係であるため、小さなこと一つひとつも明確に把握しておく必要があります。
そのため、香盤表だけではなく、配車表や衣装香盤表、ロケハンのスケジュール、予算管理、消え物リスト、小道具配置マップ、撮影場所の近くの駐車場情報等、情報化して、共有できるものは全て共有していく勢いです。
できることは、無限大。
しかし、監督でもないし、カメラマンでもない、照明も衣装も決められない私がその現場にいてできることは、ほんの少ししかない。
それでも作品が形になった時、私この作品づくりに携わったんだと胸を張って言えるように最大限努めています。
その結果、朝は早く夜が遅い日もあるかも知れません。
それをきついという人がいるかも知れません。でも、物は考え様です。
私は、限られた人しか立つことのできない現場に立てているという幸運を無駄にせず、形に力に変えていきたいと思いながら作品づくりに携わっています。
本日は、プリプロダクションについてお話ししてきました。
「準備が9割」とよく言いますが、本当にその通りだなと思います。
この準備にあたるプリプロダクションをいかに密度高く行えるかによって、のちに続くプロダクション、ポストプロダクションへ大きく影響していくからです。
さて次回は、この準備の先にあるプロダクション!撮影現場へ潜入です!是非お楽しみに!